081.遠い昔のいいつたえ
宿に戻り、配下たちを前にする。お茶やコーヒーなどの飲み物と、クッキーや干しイカなどのおやつをテーブルの上に揃えて、俺は尋ねた。
「俺が放り込まれていた世界じゃ、鳥や獣や魚は人に近い種族になることはなかったんだ。だけど、この世界では鳥人や獣人、魚人がいる。しかもどうやら、俺あたりがやったことらしい」
「コータ様は、こちらを追放されるまでの記憶がない、ということでしたからね」
カーライルが頷いてくれた。覚えてないから、できれば説明して欲しいという俺の気持ちはあっさり伝わったらしい。
「私どもには正確なところはわかりませんが、それでもよろしければ」
「うん。俺自身が思い出せりゃいいんだが、そうでもなさそうだし」
俺自身が覚えてないのに、どれだけ時間が経過したか分からない世界で、それも弾圧されたせいでどれだけ記録が残っているかも分からないマーダ教の記録を出してもらう。ほんとカーライルごめん、間抜けな神様でさ。
それから、みんなにいてもらってるのはもう一つ理由がある。
「それに、ファルンがいるからな。マール教とマーダ教、それぞれでどうやって伝わってるのかを聞いてみたいんだ」
「分かりました。マール教については、わたくしでなければ説明できませんものね」
ま、そういうことだ。ファルンならマール教の勉強はしっかりしてるはずだから、そちらで魚人とかそういった種族がどう扱われているのか、知ってるだろうし。
「とはいえ、あまり詳しくは伝わっておりませんわ。創世の神話の中で、神によって生み出された種族の一つと記されているくらいですの」
「こちらでは、アルニムア・マーダ様が勢力を伸ばす過程で海の生物に助力を願った結果、魚人が生まれたと伝わっていますね」
「まあ、魚人がいれば海でのアドバンテージはでかいからなあ。船沈めたりできるわけで」
まあ、簡単に説明されるとそういうことになるようだ。つかマール教、そこら辺記録の改変とかしてねえのかよ。ボカしただけで。
それと、やっぱり俺がやらかしたらしいな。……魚人だけ、か?
「あー。もしかして、鳥人や獣人もか?」
「はい。マーダ教の聖典には、同じように記されております」
「マール教の方では、やはり神によって生み出された種族、としかありませんわね」
やっぱ俺なのか。……すると、シーラも、アムレクとミンミカも。
「自分たち鳥人族は、その大半がコータ様の恩を忘れ、マール教に与しました。そのことをアルタイラ様は、『彼らも生きるための選択だったのだ』とおっしゃっておりました」
「ミンミカのかぞくは、ごせんぞさまからずっとコータちゃまをしんこうするように、っていわれてます。だって、いっぱいおはなしできるようになったの、コータちゃまのおかげだから」
「だから、ぼくもミンミカも、コータちゃまにおつかえできてしあわせ、です」
え、何この子たち。あとまだ見ぬ翼王アルタイラ、めっちゃ可愛すぎる。シーラも苦労してたんだなあ、ほんとごめん。
そりゃそうだよ、四天王連れててもサブラナ・マールには敵わなかったんだよ、俺たち。そりゃ、鳥人たちだって生きるためにあっち行ったりするよ。しょうがないよ、生きるためだもの。
となると、魚人たちも仕方なく協力した、とかそのあたりかも知れないな。レイダやズノッブみたいなマーダ教信者も残ってはいるから、隠れマーダ教はあちこちに残ってくれている可能性が高い。ミンミカたちみたいに。
……ん、ああ、そうか。
「というか、レイダ……ネレイデシアは要するに、その魚人のトップだった、と考えればいいわけか」
「そうでしょうね。私の王であるアルタイラ様も、鳥人族の王という立場でしたから」
「うん」
要は四天王のみんなって、俺が人に近い種族にした連中のそれぞれのトップだった、わけか。
それで、俺についてくれてて、そうして俺が負けたから封印された。
いやほんと全力でごめん。レイダ、次会ったら謝る。……俺が昔の記憶ないこと、言ったっけなあ?
「でも、そうしたら何で勇者ソードバルは、魚人の協力を得ることができたんだ?」
「そりゃ、一つの種族が全員同じ考えとは限りませんから。先程シーラ様もおっしゃいましたが、鳥人族と同じように魚人族からも生きるためにマール教に与した者が出たのでしょう」
「……そうだよな」
あー、何かいろいろ考える。
かといって、俺はこのままおとなしくコータちゃんを続けている気はあんまりなくなったんだけど。
獣人を低く見てたりする連中はいるんだよね、実際のところ。
そいつらには、目にもの見せてやりたい。
アルニムア・マーダじゃなく、コータとして。




