078.ちょいとまずいことになる?
さて。
レイダの姿が跡形もなくなってすぐ、カーライルたちが衛兵とともにこの部屋に入ってきた。
「だ、大丈夫でしたか、コータちゃん!」
「怖かったですー」
「そ、そうですか……すみません」
めんどくさい話は配下に任せることにして、俺はカーライルにしがみつくいたいけな少女を演じる。外見上、この方が疑われないからな。
「ミンミカ、だいじょうぶだったか?」
「ミンミカはおっきいので、だいじょうぶです!」
「そうか、よかった」
地味に、アムレクもちゃんとお兄さんをやっていた。エンデバルじゃ、立ち位置逆だったからなあ。
で、配下に押し付けることにした衛兵さんたちは、レイダがぶち割った床の穴やら室内やらを確認しつつ、シーラやファルンに声をかけている。あ、カロリナも一緒にいるし。
「済まない、逃げられてしまいました」
「いえ。皆様がご無事で何よりでしたわ」
シーラが軽く謝罪のフリをすると、カロリナは軽く首を振って答えた。彼女にしてみればあれはマジ本音なんだろうな。
ファルンが、その横から恐る恐る尋ねる。
「あの、一緒に捕まっていた皆さんは……」
「全員無事との確認が取れました。これも、我らが神のご加護によるものですわね」
出たな、マール教ある意味お得意のセリフ。ま、そういうことにしておいてやろう。
少なくとも、誘拐犯どもがマール教に敵意のある連中だったことは事実だし。俺の信者だ、なんて間違っても言いたくないし言えないけど。
「あのう、べたべたなんですけど」
「良い風呂屋がございますから、そちらでお身体を清められるとよろしいでしょう。お召し物の替えはございますか?」
「宿に戻ればあるんですけれど」
「分かりました。教会の方で準備させていただきますわ」
ミンミカが例によって空気を読まない発言をしたことで、どうやら俺たちはここから開放されそうである。うん、ぬるぬるべたべたはさすがに気持ち悪いんだよな。俺たち魚人じゃないから。ファルンが苦笑して、自分たちの全身を見回すのも無理はない。
つか、服の替えの準備してくれるのか。ありがたいなあ……今着てるのは洗濯かな。匂いがちょっとあれだけど、それ以外は特に問題なさそうだから。
「そういえば、シーラ殿」
「何か」
ふと、カロリナがシーラに声をかけた。笑顔ではなく真面目な表情で。
「あなたは、別の部屋からの指示が出たと同時に動かれた、という証言があるのですが。どなたのご指示ですか」
……あ。
やべえ、シーラと一緒にいた連中から漏れたか。うっかりしてたぜ……つか、事情聴取早いな。
「すみません。わたくしですわ」
「まあ」
俺がそんな事を考えているうちに、ファルンが名乗り出てくれた。……命令口調だったもんなあ、ロリっ子外見の俺が言ったなんて知れたらどうなることやら。けど、口調アレだったんだけど。
「皆の危機でしたのでつい、はしたない口調になってしまいましたの。ですから、あまり公にはしないでくださいましね?」
「そうですわね。承知しました」
おー、そんな理由で丸め込めるか。助かった……。
「コータちゃん」
「すまん。気をつける」
いやほんと、ごめん、カーライル。
……今後は、マール教にある程度バレてる可能性を考えて動かないといけないかもな。
マジでレイダ、先に逃しておいてよかったかもしれない。




