074.タコ姉ちゃんはやはりタコ
「コータちゃま、ごぶじでしたかー」
へたばってるイカ男を無視して、ミンミカが飛び込んできた。後ろから、アムレクも追っかけてくる。
踏まれもしないズノッブさん、ある意味かわいそう。ま、いいけど。
「ミンミカもアムレクも大丈夫そうだな。他に人はいたか?」
「ほかにつかまってたひとたちはぜんぶ、にげました!」
「そうか。ありがとう」
えっへん、と胸を張ってアムレクが答える。でもまあ、多分シーラがぶち破った壁から逃げ出したんだろうけど。
それでも、この二人は俺のところに来てくれたから、ありがとうでいいよな。
さて、そうすると。
「で、タコ女はどこだ?」
「たぶん、シーラさまとけんかちゅうです」
「喧嘩なのか?」
「シーラさま、あのタコおんなに、いっぱつぶちかますうっ! ……ておっしゃってましたから」
首を傾げたカーライルに、ミンミカが精一杯の声真似で答えた。あれ、結構似てるな、おい。
なお、遠くの方でどかん、とかばきん、とか音が聞こえてるのは多分、シーラとレイダの攻撃でこの建物に被害が出ている音じゃないかなー……と思う。っておいお前ら場所考えろ、きっと声届かないけど。
「コータ様、危ない!」
「どわあっ!?」
いきなりカーライルに腕を引っ張られて転がる。途端、目の前に何故か蛸壺が落ちてきた。……倉庫かどこかに入ってたのかね、『海王の足焼き』なんてもんがある以上タコ漁はやってるんだから。
その蛸壺、よく見たら剣の傷が入っている。えーと、ということはつまり。
「あらら。やだねえ、剣に頼るだけのお姉さんは」
「そちらこそ、ものを投げるしか能がないのか」
ああ、やっと本人たちが出てきた。
つまりレイダが蛸壺を投げて、それをシーラが剣で跳ね返して、うっかりこっちに来ちゃったとそういうことね。
しかし、シーラ。レイダ斬れてないんだ。
「……ヌルヌルして斬りにくい、とか」
「不甲斐ないですが、その通りです」
「そりゃそうか」
海産物系の、割とお約束なところが出てきたな。このタコ姉ちゃん、やっぱりぬるっとしてるところあるんだ。だから斬りにくい、とそういうことだな。
茹でたら斬りやすい……のは普通のタコか。いや、茹でたらだめだ、吸えない。
「じゃあ、斬らなくていいから全力でとっ捕まえてくれ。試したいことがある」
「は?」
「承知しました」
「いやいや、どういうことだいアンタら!」
あ、何かバレた。
外見ロリっ子の俺が命令して、それにシーラがあっさり従ってるのはそりゃおかしいか。いやまあ、いずれにしろ吸って吹き込んだら問題ないんだけどさ。
「黙れ。おとなしく我らが主の下に入れ」
「えええちょっとやめないかっ!」
捕まえろ、という命令なんで当然、シーラはレイダに掴みかかるわけだ。慌ててぬる、ぬるっと逃げ出しにかかるレイダなんだけど、カーライルが後ろから頑張って抱きしめにかかった。
「このっ!」
「きゃあ!」
「くっ」
って、可愛い悲鳴に手を離すな、お前は。あと今タコの頭、じゃねえあれは胴体か、じゃなくておっぱい鷲掴みにしたろ。
後で触り心地は確認するからな。
「カーライルさん、だめですよー!」
「つかまえろー!」
一方、そういう方面には疎いというか鈍いらしいウサギ兄妹が同時に突入。この辺血の繋がりは強い……かどうかは別にして、二人が腕を片方ずつ捕まえる。
でも。
「お離しウサギども!」
「ぎゃん!」
「わあ!」
ぶるん、と腕を振るうとその二人が双方に飛ばされる。あ、腕もそれなりにタコっぽいのか。ぱっと見普通の腕に見えるけど、その実くねくねできてるし。
なんてことを思っていたら。
「ぎゃっ!」
突然、上から降ってきたさっきとは別の蛸壺の底が、レイダの頭を直撃した。




