073.配下は暴れて俺はのんびり
ばきばきめきめき、とってもお約束な木材が割れたり折れたりする音が響く。ついでにこちらの壁が揺れ、ホコリが降ってきたりするのもお約束だ。こういうところ、掃除してないもんなあ。
多分シーラは自分が入った部屋の壁をぶち割ったところだろうから、手っ取り早く指示を出す。
「ファルンを先に! 他にも僧侶や捕虜がいるなら、そちらには危害を加えるな!」
「お任せを!」
帰ってきた答えは一言だけで、そこからぎゃーとかわーとか楽しい悲鳴が増えてきた。あ、結構人数いるみたいだな。
「相手悪かったな、あいつら」
「さすがに、ルシーラット様だとは誰も思わないのでは」
「まあ確かに。てか、それ以前にシーラがあれだけ強いとも思わなかったんだろうし」
俺、ことアルニムア・マーダが復活してることも気づいてない連中だしな。自分たちにおとなしくついてきた鳥人の女剣士が『剣の翼』だなんて、まったく念頭にないだろう。そもそも、シーラの強さも分かってなかったわけで。
あ、せっかくだからやっておきたいこともやっておこう。
「ついでなんで、あのタコ女がネレイデシアかどうか確認したいんだが」
「は?」
何とか身体の調子が戻ってきてるっぽいカーライルに、そんなことを言ってみる。何言ってるんですかあなた、と一瞬きょとんとされたけれど、案外頭の回転は早いので理解はしてくれたらしい。ま、要はレイダという名のタコ女を吸いたいってだけなんだけどね。
ネレイデシアとの共通点、タコ女ってだけなんだけどさ。
「そう都合よく行きますかね」
「行くんじゃねえ? それを言ったら、シーラだってかなり都合良すぎだぞ」
そう言ってやると、カーライルはなるほどと肩をすくめた。俺や俺の神官を殺りに来た剣士が、実はこちらの味方だったなんてのはかなり都合のいい展開だ。だけど、一度あったんだし。
「それに、この街自体ネレイデシアに縁がある街だからな。ここで生まれ変わってても、何もおかしくはない」
「ふむ……さすがですね、コータ様」
「難しいことを考えたくない、とも言うけどな」
何しろ、サンプルになる対象がまるでないからな。シーラは流れ流れて俺のところまでやってきたわけだけど、最初に生まれたところがルシーラット絡みかどうかは分からない。
なんで、レイダをサンプルにしてみたいのかもしれないな。彼女がネレイデシアであれば、他の四天王たちを探す参考になるわけだし。
「それにしてもコータ様。ファルンはともかく、他の僧侶たちも助けてよろしいのですか」
相変わらず外でドタバタやらかしている音を聞きながら、カーライルが尋ねてきた。
ぶっちゃけ僧侶は全部女の子なんだから俺吸いたいな、という本音の本音は置いといて、一応の本音を答えてみよう。
「変に敵を作っても仕方ないからな。そうでなくても、周囲は敵だらけなんだから」
「そうか……マーダ教ですら、信用できませんからね」
「俺がお前らの信じてる神だっつっていきなり信じてくれるのは、ミンミカとアムレクくらいだよ」
「ははは」
いや、あのウサギ兄妹、あっさり信じてくれてびっくりしたよ。俺自身だって、自分が邪神かどうか未だに疑わしい部分もあるってのにさ。
精気吹き込んだら相手を下僕にできるから、一応それなりのバケモンらしいのは分かっているんだけど。
「多分、この建物はもう使えないでしょうね。せっかくですから大騒ぎして、衛兵にお手入れをしていただきますか」
「掃除もしてもらえると助かるんだけどなあ。何というか、生臭い」
「そうですね……」
騒ぎの場所がちょっと離れたようなので、そろそろ大丈夫かな。カーライルの麻痺も、それなりに回復しているようだし。
「カーライル、動けるか」
「歩く程度であれば」
「十分だ。部屋を出るぞ、シーラのせいで潰されたらたまらん」
「分かりました」
カーライルが少しゆっくりだけど歩けるのを確認して、俺は扉を開け……ようとしたら向こうから開いた。
「何だいお嬢ちゃん、勝手に出てぐっ!?」
「コータ様に無礼な口を聞くな」
顔を出してきたズノッブだっけ、イカ兄ちゃんの顔面に、カーライルが遠慮なく突き出した杖の太い方の先端が打ち込まれる。
軟体らしくぐにょんと食い込んだ杖が引き抜かれたところで、イカ兄ちゃんはそのまま床にずるずると倒れた。
……マジでイカそうめん食いたくなってきたなあ、全く。




