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070.イカ兄ちゃんとタコ姉ちゃん

「……軽い麻痺効果、ですね」

「マジか」


 粘液ぶっかけられたカーライルの身体が、少し重くなる。うわ、麻痺効果か。めっちゃ便利、とか言ってる場合じゃねえな。

 いや、俺は無事なんだよ。カーライルが動けなくなるだけで……って、大変だよな、うん。


「あらあら、お嬢ちゃんにだけぶっかけるはずだったのにねえ」

「いいじゃねえか。とっ捕まえられたんだしよ」

「ヘタクソ。これだから、アタシに任せろって言ったのに」


 えらく楽しそうな声がして、二人ほど出てきた。粘液出したのは、このどちらか、らしい。

 アタシ、と発言したのは赤紫色の肌の……あ、タコが二匹いる、じゃなくてありゃおっぱいか。それを布巻いて縛っただけで隠したつもりになってる、そこ以外も露出度多い姉ちゃん。髪の毛に混じって、タコ足がびろろんと伸びている。腕は色以外人間ぽいけど、足は太いタコ足だ。

 対して、俺とカーライルのそばに降り立ったのは何というか全体的に白っぽくてヘロヘロとした感じの……そうか、確かにこれがイカだなと納得できる兄ちゃんであった。こちらも、髪の毛に交じるようにイカ足が伸びていて、手足もタコ姉ちゃん同様。

 で、その白っぽい兄ちゃんが伸ばしてきたイカ足が数本、俺をかばってるカーライルにまとわりつく。あ、これ人質扱いだ。参ったな。


「……気持ち悪い」

「うっせえよ。俺だって野郎にへばりつくのは気持ち悪いわい」

「なら離れろ」

「それができりゃ苦労はしねえ」


 カーライルはというと、俺を抱え込んだままイカ兄ちゃんと文句の言い合いをしてる。その首にイカ足が巻き付いてるから、うかつに反抗もできない状態だな、こりゃ。

 そうすると、タコ姉ちゃんの方が交渉役らしい。脅し役ともいうか。手に持ってるのは槍、と思ったけどもしかして漁に使う銛か。それをカーライルの首筋に当てて、口調は丁寧にただし高飛車な声色で分かりやすく宣った。


「さて、お優しい僧侶サマ。アタシたちが何をしたいか、おわかり?」

「……わたくしに何かをさせよう、としているであろうことは」

「ま、そうだねえ」


 ああ、やっぱりファルン……てか僧侶狙いだったんだ。この二人、言い草からしてマール教ってことはなさそうだな……えー、マーダ教でもやり方がちょっと。さっきの会話からすると、まず俺だけ人質にするつもりだったみたいだし。

 一応ロリっ子、と普通のお兄さんが人質役なので、シーラやファルンたちも抵抗は諦めたようだ。いや、シーラは後でぶっ殺す気満々だろうけど、とりあえずは。


「ひとまずは、一緒に来てもらいましょうか。逆らうと、お嬢ちゃんとお兄さんが窒息するわよ」

「……分かりました」


 まあ、そう答えるしかないよね。人質に取られてる側としては大変不本意だけど。

 あーもう、こっちで目が覚めた時みたいなイヤボーン、出てこないもんかな。あれは、さすがにガチ生命の危機だったからかもしれないけれど。

 ということは、まだ呑気に構えてていいってことかな。大丈夫か俺、一応邪神なんだからいざとなったら頑張らねえと。


「鳥とウサギも一緒に来な。頭数は多いほうが良いからね」

「承知した」

「はあい」

「わかった」


 シーラとウサギ兄妹には口悪いな、タコ姉ちゃん。あ、いや、ファルン相手にだけ嫌味ったらしく言ってるのか、アレ。

 やっぱりマーダ教関係かな。これはこのまま連れて行かれて、背景確認してからでも遅くはないか。


「コータちゃん」

「大丈夫です、カーライルお兄ちゃん。抵抗、しないでください」

「……分かりました」


 一応そばにイカ兄ちゃんがいるので、ロリっ子芝居でカーライルに指示する。多分こいつも、俺の考えてることはある程度分かってくれてるだろう。そうだといいな。


「ズノッブ、とっとと二人連れて来な」

「分かってるよレイダ、そいつらは頼むぜ」

「任せな」


 ……イカ兄ちゃんは名前がズノッブ、タコ姉ちゃんはレイダか。

 このタコ、吸ったらシーラみたいにならないかな。ネレイデシア、タコだってシーラ言ってたし。

 ま、そう簡単に行くわけないか。


「よいしょ」

「わっ」


 イカ兄ちゃんことズノッブ、カーライルを軽々と肩に抱え上げた。見た感じより筋力あるってか。

 で、俺は小脇に抱えられた。小さいからな、仕方ねえや。


 ところで、タコの精気って吸ったらどんな味がするんだろう?

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