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063.遠く見えるは因縁の

 このソードバルの街は、スラントやエンデバル以上にマール教万歳な街である。

 俺がそう実感したのは、宿を取った結果だ。関所の衛兵さんに聞いた良さげな宿が街一番の高級ホテルで、かつ。


「僧侶様御一行には、こちらのお部屋をご用意させていただきました」

「まあ、良い眺めのお部屋ですわね。ありがとうございます」


 はいまた来たよ最上階スイート。うん、向こうの世界の最上級とはさすがに比べ物にならないけどさ、十分広々したお部屋が三つもあるし。

 で、観光地の最上階となると街の眺めがすごくいいわけだ。ここまで来ると、建物に邪魔されて見えにくかった海岸やら海がよく見える。マール教マジ万歳。俺マーダ教の最高神だけど。


「あちらの入江が、勇者ソードバル様が海王を倒した地となります。あの形は、勇者様の最後の一撃が形作ったものだと伝わっています」


 ここまで案内してくれた背の高い、いかにもお金持ちの婦人って感じの支配人さんが、東の方を指して説明してくれる。

 あちらの入江、ってどう見ても中心で爆発が起きてまあるく空きましたって感じのあれか。ほぼ真ん丸の崖が取り囲む、色からして少し深い感じの海。

 あんなの作るため……いや、ネレイデシアを倒すためにこう、サブラナ・マールは勇者ソードバルと数晩お楽しみだったわけだ。うがー、何か腹立つ。


「では、記念碑もあちらに?」

「ええ。ぜひ、ご覧になってください」


 俺が必死で顔を作っている間、ファルンがしれっとした顔で支配人さんと会話を交わしている。ココらへんはさすが僧侶、外面の良さは抜群だなあ。いや、褒めてるんだよ、これでも。


「もちろんですわ。それと、聖なる床というのは」

「あちらの岬にございます、ソードバル大教会の聖堂ですわ。少し歩きますので、日を改めてご覧になったほうがよろしいかと」


 あちらの岬……入江の向こう側に見える、崖の上にある分かりやすく教会な建物がそうか。あそこで以下省略、考えないことにしよう。


「まあ、重ね重ねありがとうございます。そうですわね、ちょっと遠いですから明日にでも」

「そうなさってください」


 支配人さんはゆったりと頷いて、それから部屋を出ていくことにしたようだ。入り口でこちらを向いて、丁寧に頭を下げてくれる。


「それでは、ごゆっくりお楽しみくださいませ。御用がございましたら、いつでもお伺いいたしますわ」




 ばたん、と音がして扉が閉まる。すばやくシーラがそのそばに滑り込み、廊下の音を扉越しに確認。しばらくして、こちらを見て頷いた。


「……ネレイデシアさま、かわいそうですー」


 ぷう、と頬を膨らませたのはミンミカ。ま、倒された跡を見ちまったんだしなあ。


「まあ、敗北なさったのですから、致し方ないのですが……」

「シーラみたいにどこかで生まれ変わってくれてるんなら、それでいいんだけどな」


 カーライルの困ったような台詞に、俺は答える。俺、というかアルニムア・マーダみたいに魂だけ別の世界に叩き出される、とかそんなことはなかったみたいだし、きっと世界のどこかで生まれて生きててくれてる、と思うんだけど。


「それは、ほかのしてんのうのみなさまも、いっしょですよね」

「もちろん」


 アムレクも、妹と同じことを考えてたんだろうな。だから、笑って頷いてやったよ。二人して、垂れ耳がぴるぴる動いているのは可愛いもんだ。性別や性格や性欲はともかく、ウサギは可愛い。


「ところで」


 外を確認したことで戻ってきていたシーラが、カーライルに向かってほんの少しだけ唇の端を上げた。これ笑ってるんだけど、慣れないと脅してるようにも見える、気がする。


「カーライル。先程も言ったが、街中を観光するためにも揉んでやろう。覚悟はいいな?」

「は、はいっ」


 あ、違う意味でカーライル固まった。そりゃ、シーラが指ぼきぼき鳴らしながらそんな台詞吐くんだからなあ。

 とはいえカーライルは、俺をこっちの世界に連れ戻した張本人かつ俺の最初の配下、だからな。一応かばっておこう。


「シーラ、ほどほどにしろよ」

「無論、仰せのままにいたします」

「それだけですかコータ様っ!?」

「大丈夫だ、頑張れー」


 うん、俺すっごく薄情な気がする。邪神なんだし、別に問題ないと思うんだけどな。それに、シーラはカーライルの身体のことを考えての言動だしさ。


「では、隣の部屋をお借りいたします。失礼」

「わあああああ」


 ほい、とシーラの肩に担がれて隣室に消えていくカーライルに、俺は元気でなーと手を振った。いや、さすがに死にゃせんだろ。

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