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060.どんな姿をしてるかな

 それじゃこれで、とガゼルさんが退出した。宿から出ていくのを窓越しに確認して、俺は「ところで」と配下たちを見渡す。

 さっき聞いた、神の力を受けた勇者うんぬんってのが引っかかったというか、何というか。


「サブラナ・マールの力を受けたって、つまりそういうことだよな」

「コータ様のご想像通りかと思われます。ファルンは知っているのか?」


 シーラは俺の言いたいことを理解してくれて、すぐに頷いてくれた。話を振られたファルンも、少し済まなそうな顔で引き取る。


「ええ、とても。ソードバル様をはじめとした勇者たちはすべて、自らが勇者として選ばれた地でサブラナ・マール様とそれぞれ数晩を共にしたと伝わっております」

「一晩じゃねえのかよ!」


 うん、多分ここが突っ込みどころでいいと思う。何日もかよ、エロ神。いや、多分俺も人、というか神のこと言えないけどさ。

 でも、ソードバル一人だけじゃないんだよな。あーうらやましい、いや突っ込むもんないけど。って、そこじゃないな。


「相手が四天王の方々など、実力者ばかりでしたのでどうしても、数度に分けて神の力をお与え頂く必要があった……と伝え聞いておりますわ」

「だからといって、さんざんお楽しみだったわけか……」


 ファルンはしれっと答えてくれたけど、カーライルがうんざりした顔になる。まあ、男の立場としても微妙だろうな。


「ミンミカたちのいちぞくも、こうびはさかんですよ? ミンミカは、まだですけど」

「ぼくもまだ、です」

「いや、そこは言わなくていいから」


 ミンミカとアムレクが微妙に外れた発言をしてくれて、もう一度俺は突っ込んだ。そういえば、あっちの世界じゃウサギはお盛んと聞いたことがあるけど。こっちでもなのかよ。この兄妹がまだなのはまあ……うん、相手は選んだほうがいいぞ、お前ら。


「あ、ちなみにソードバルの教会は聖なる(とこ)として崇められておりますが」


 思わず角ごと頭抱えた俺、悪くないよね? ファルンが悪いんでもないよね、そんなネーミングしたマール教が悪いんだよね?

 つか聖なる床か、性なる床の間違いだろうとベタベタな変換を脳内だけでしてみる。やってることはそっちのほうが、字面が合ってるだろうし。

 といっても、なあ。


「……マール教信者にしてみたら、勇者が神様からすごい力をもらうことができた場所だもんなあ……」

「時折マーダ教信者による破壊工作だったり嫌がらせだったりがあるそうで、一応警備は厳重らしいですが」

「そりゃそうだろ」


 ほんと、ファルンいろいろ知ってるなあ。修行の旅に出るマール教僧侶としては、知っておくべき場所の一つだったのだろうけれど。

 あと、一応厳重な警備って。今の俺たちだとチョロくクリアできるとかそんなもんか。平和に浸りすぎだ、もう少し頑張れよマール教。いや頑張られたら俺が困るけど。


「でもまあ。ネレイデシアが倒された場所なんなら、何かのヒントは得られるかもしれないしな」

「そういうことですね。ネレイデシア様に関する情報なども手に入りやすいかもしれません」


 あくまでもマール教視点で、ですがと最後に付け加えてカーライルはものすごーく嫌な顔をする。ゲームだと強い中ボスとかだもんなあ、いい感じで書かれてる情報なんかないだろうなあ。

 ……情報、といえば。


「ところで相変わらず俺は思い出せないんだけど、ネレイデシアって外見どんな感じなんだ?」

「自分が記憶しているネレイデシア様のお姿でよければ……一言で言えばタコですね」


 会えたときに分からないと困るから聞いたんだけど、シーラの答えは何というか、不穏なものだった。


「タコ」

「ああ、ちゃんと地上でも動けますからその点はご心配なく。魚人という種族なんですがその中のタコ魚人、です」

「ミンミカ、ごほんでよんだことがあります。おててはふつうのおててなんですけど、おみあしがちゃんとたこなんだって」


 ……あーえーと、空気呼吸できる下半身がタコ、でいいのかな……鳥人のシーラが背中に羽生えた人間だから、って思ったんだけどそういや鳥頭なタイプもいたな。何か諦めたほうがよさそうだ。

 でも、タコなのに魚人なのか。水生生物だと一緒くたなのかね。


「肖像画とかあればいいんだけど、あるかな」

「恐らくは、ソードバルの教会に勇者ソードバルがネレイデシア様を退治した時の絵があるかと」

「それ、めっちゃ怪物化されてねえか?」

「多分、普通のタコが描かれている気がします」


 ……ですよねー。図書館か何かで資料探したほうが良さそうだ。シーラの言う通り、ソードバルの四天王退治なんて絵、ほぼ確実に巨大タコ退治だろうし。

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