412.そろそろ行くぞ俺たちが
「出立ですか、コータ様」
「うん」
カーライルが待っていたのは、城の屋上。すぐにでも飛び立てるように、ということだろう。
既に龍王クァルードの姿になっていて、ガイザスが作ってくれた甲冑をきっちりと着こなしている。
「おー。カーライル、似合っててかっこいいぞ」
「お褒めに預かり恐悦至極。コータ様も、とても良くお似合いですよ」
「ありがとな」
素直に褒めると、龍の目がにいと細められる。蛇みたいな瞳だけど、こうしてみると悪くはないな。
と、カーライルが軽く背を屈めた。
「さあコータ様、我が背に」
「おう……って」
前のときみたいに肩に乗っかろうとして、気づいた。なにげに鞍っぽいモノがくっついていて、ステップやハンドルもあったりする。その横には長い剣が備えられていて。
……どう見ても俺サイズです、ありがとうございました。
「乗るとこ作ってあんのかよ」
「ガイザス殿がノリノリでして」
ああ、製作者が頑張っちゃったわけか。というか、結局俺はここに乗るわけだから何も問題ないんだけどな。
「それに、何か武器あんだけど」
「龍王の背中で剣を振りかざす戦女神を見たい、と」
「いややってもいいけどさ!?」
思いっきり何考えてんだ、ガイザス。
大体だなあ……そういうのはナイスバディのお姉ちゃんがやるからかっこいいのであって、獣人ロリっ子がやってもお芝居か何かにしか見えない、と思うんだが。
「少なくとも、マーダ教信者の前でお言葉を賜りたく。その折にはよくお似合いかと」
「……やるのかー」
ああ、出撃前の演説ね。もしかしたら、と思ってたんだけどやるしかないってか。
……そうだよな。戦争の前、だもんな。
「どうしても数が少ないですからね。我らが神のお言葉をいただき、気合を入れてもらわないと」
「そんなんで不利覆せたら苦労しねえよ……ただまあ、声がけはする」
カーライルはわざとそこら辺を避けるように言ってくれるけど、でも俺だって、そのくらいは分かっているから。
「俺のせいで死にに行かせるようなもんだからな、責任は取らないと」
だからそう、はっきりと言った。マーダ教の長、神アルニムア・マーダとして、そこは責任を取らなければならない。
俺への信仰のために、戦いに向かってくれる人たちに対して。
「私ども四天王が、そのようにはいたしません。今度こそ、コータ様に勝利を」
「……サブラナ・マールをピンポイントで取らないと無理だぞ」
「そのために、私がおります」
カーライルはそう答えてくれた。でも、絶対的に数でこちらが不利すぎるのは分かっているし、敵の頭であるサブラナ・マールと今の俺が戦ってこっちが勝てるか、というとやっぱり疑問だ。
だけどカーライルは、それでもついてきてくれるって言ったから。
「…………ありがとな」
俺は、礼を言うしかなかった。




