405.ラストボスから逃げられる
「なるほど。その僧侶は……お前の下僕なのか」
「最初の、な。いろいろ、助かったぜ?」
教主が、ファルンを見て目を細めた。ああ、外からだとやっぱり見て分からないもんなのか。
途端、ファルンの身体がぐらりと揺れる。とっさにカーライルが手を伸ばして抱きとめてくれたけど、気を失ってるみたいだ。
……俺の精気、抜けたかもしれないな。俺の下僕だって分かったことで全部忘れろ、が発動したのかもしれないし。……ファルンに掛けたっけ? ま、いいか。
「ふむ」
そんなファルンと、それから俺を見比べて教主は何というか、満足げな顔をしている。何でだよ、ムカつくなあ。
「何、お前の力はまだまだ戻っていないだろう。なれば、この私には敵わぬも道理」
何だ、今の。背筋にぞくっと、寒気が走る。
俺が動く前に、ウサギ兄妹が俺の前に進み出た。
「コータちゃま、さがってください」
「あのひと、あぶないよ」
「あ、ああ」
俺と、ファルンを抱えたカーライルを守るようにミンミカ、そしてアムレクが構える。教主はそんな俺たちを見て……不敵に笑うと、大声を上げた。
「アルニムア・マーダ! 配下共は全て吹き飛ばして、今度こそ我が下に!」
「っざけんなこのクソペド親父がああああああああっ!」
こっちだって大声じゃ負けてねえよ、久々の衝撃波で対抗する。というか、俺たちと教主の間とで何かぶつかったのはつまり、教主の方も衝撃波出してたってことか。あーあー、風と音にならない音でうるさくてしょうがねえ。
「教主様!」
と、バタンと扉が開いて外から僧侶だの衛兵だのがどやどやと入ってきた。あ、すっかり囲まれてるみたいだな。こりゃやばいか。
そうなると、切り札を切るしかないよなあ、この際。
「邪教徒め!」
「カーライル!」
「御意」
ファルンを抱いたまま、カーライルが変化を始める。最初に伸びた尻尾が、マール教の連中を横薙ぎに叩きのめした。ついでに教主に向かってビームを吐いたけど……うわマジか、バリアーか何かで食い止めやがった。
「な……!」
「ほう。龍王クァルード、蘇ってこられたのか」
「我らが長のお力でな」
クァルードであることを隠すつもりなんて毛頭ないカーライルは、一度ビームを止めてそう答える。背中の翼で室内に風を起こし、それから今度は壁に向かってビームを放つ。
「グァアアアアアア!」
うん、穴空いた。多分これ、外まで貫通してるな。
「お乗りください! 二人も!」
「あ、うん」
「はーい」
「しっかりつかまれー」
ま、ここまでか。そう思ってカーライルの肩にしがみつくのとほぼ同時に、龍王は床を蹴る。そうして、空いた穴から外に飛び出した。




