401.慎重に行きましょう
翌日は日中、宿近くの屋台などを見物したり食べ歩きしたりして過ごした。部屋でのんびりしててもいいんだけど、わざわざ観光地にやってきて部屋にこもりっぱなしというのは微妙に怪しいからな。
で、夕方前に一度部屋に戻って休憩。夜の都を見物する、という名目で日が暮れてから出かけた。
「人多いねえ」
「神の都を名乗るだけあって、治安もしっかりしておりますからね」
気候も問題ない感じで、水はちょっと冷たそうだけどまあ、レイダは魚人だし平気かな、と思う。その何となくひんやりした感じのせいか、水路の横にある歩道を通る人は少ない。大概が魚人か……あ、あれラッコっぽいな。水棲獣人も平気か、なるほど。
「それでは、お気をつけて」
「シーラお姉ちゃんも、夜は暗いから」
「はい、分かっております」
適当なところで、シーラと別れる。彼女はこのままこっち側に居残りで、その後は状況に応じて動いてもらう。最悪、一人だけでも脱出する役目だ。
「じゃ、行こうか。嬢ちゃんたち」
「はい」
「わりとみえるねー」
「すいろはくらいけど、まちはあかるいもんな」
「確かに、下から見ても街は明るいですね」
だなあ、と皆と一緒に上、つまり街の方を見上げる。ここからだとほとんど街並みは見えないんだけど、その明かりが柵だの段差だのを越えてここまで入り込んできてる。
……この明るさも、あちこちの金持ちや信者たちから巻き上げた金で出来てるんだろうな。
「けど、おみずにあかりがうつってきらきらきれいですー」
「あ、ほんとだ」
こちらの街の明かりと、対岸にある聖教会の明かりが水面に映ってきらきら、ミンミカの言う通り綺麗だ。これが暑い時期だったりすると、もっと人多いんだろうなあ。
そのうち、人がまるでいないエリアに出た。まあ、もうだいぶ遅い時間だしな。そうして俺達のいる場所の上には、聖教会に繋がる橋がかかっている。この橋の下、中央辺りを行くなら、まあ見張りの衛兵からはまず見えないだろう。
「では」
橋の下、灯りのない暗闇の中でレイダがするりと柵を乗り越える。そのままするすると、ほとんど水音もさせずに水中へと入っていった。さすがタコ。
そうしてすぐに、ちゃぷんと頭が出てきた。遠くから見たらばっちりタコに見えそうなレイダは、俺に向かってにゅるんと髪に混じったタコ足を伸ばしてくる。
「じゃ、行くよ。コータちゃま」
「頼むぞ」
俺はおとなしく吸盤に固定されて、レイダの頭の上に乗る。そうしてしずしずと、水路の向こう側へと進み始めた。




