390.ひとまず行くは目的地
「ごちそうさまでしたー」
お残しはあきません、というだけあって、料理の一人前はちと少なめに盛られている。それを綺麗に片付けて、俺たちはレストランを出た。マジで支払いも何もせずに「ありがとうございましたー」という見送りの言葉を、背に受けて。
さすがに驚いたので、ファルンの顔を見上げる。
「ほんとに無料なんですね」
「ええ。初めて来られた方は大概驚かれるそうですよ」
「そりゃねえ」
レイダが肩をすくめると、髪に混じってるタコ足がうにょろんとお手上げポーズを取った。多分。
「さて、どこに行きます?」
シーラが、軽く声を落として俺たちに尋ねてきた。……ああ、わざわざ入域証取ってまで入ってくるんだから、大概の人は行き先決まってそうだよな。確かに。
でもまあ、俺たちが行くべき先ってだいたい一つしかないし。
「一番人気って、やっぱり聖教会ですよね? ファルンお姉ちゃん」
「ええ、もちろん」
とりあえずロリっ子ムーブ続行、で聞いてみると即答された。ま、そりゃそうだわ。あんな目立つ建物だし、マール教の中心だし。
「じゃ、そうしますか。コータちゃま」
「うん。大きな教会、じっくり見てみたいです」
「そうですね。どういう作りなのかも拝見してみたいですし」
「内側とか、どうなってるんでしょうね!」
カーライルと擬似親子というか何と言うか、な会話になる。最初の仲間の一人だから、この辺りはいい加減慣れちまったよなあ。
でもまあ、結局やることは聖教会の見学なので、皆してぞろぞろと歩いていった。
で、聖教会の入り口広場前まで到着して、まずは外見の感想。
「……やっぱ大きい……」
「首が痛くなりますね……」
「うーわー、すごいですー」
「ほんと、おっきいですね!」
ちっこい俺から見たら余計でかいのだけれど、カーライルやミンミカ、アムレクから見てもそりゃ当然でかい建物である。よくつくったよなあ、主に剣の紋章。ここから見ると、下の方だけだけれど細かい細工とか結構されてるし。
「観光客の数が制限されてるからか、そう混んではいませんね」
「ゆっくり見られるのは、いいですわよね」
シーラとファルンは、入り口広場を見渡しながらのんびりと会話を交わしている。レイダは持参してる水を飲みながら、「まあまあのお湿りだねえ」と何というかホッとした顔になってた。やっぱり、乾燥したところが苦手なんだろうな。タコだし。
で、案内役を務めてもらってるファルンが俺たちを見回して、注意を一つくれた。
「こういった重要な場所では入域証の提示が義務付けられていますから、各自お忘れなきよう」
『はーい』
さて、見学という名の偵察、行きますか。




