356.真の姿と朝の空
さすがに、この展開にはババア他僧侶もびびったらしい。
まあ、レアな龍人族……それも俺の四天王、龍王クァルードが突然目の前に現れたわけだからな。森より少し背が高く、周囲の木々をなぎ倒して現れたそいつに驚かないわけがない。
「クァルード……龍王ですって!」
「そのとおり。お前たちの愚かな神に封じられていて、今まで出てこられませんでしたがね」
ちょっと偉そうになっているけれど、それ以外の口調はカーライルのままでクァルードは、ばしんとそばの木を尻尾で叩いた。簡単に折れた木が倒れる音で、ババアたちは自分たちがやばい状況にあるのだと気がついた、ようだ。
「去りなさい、愚か者どもが!」
クァルードが、吠える。声にならないその声は、圧倒的な威圧感を持ってその場を支配した。マール教の手先に、対してだけ。
「ひっ……ひいいいいい!」
「うわああああ!」
途端、僧侶やひっくり返ってた男たちが泡を食って逃げ出す。転がるようにというか、途中ほんとに転んで四つん這いのままおたおたと逃げていくやつもいるし。
「どうします?」
「あーもう、隠してもしょうがねえだろ。逃してやれ」
「分かりました」
スティが呆れ顔で、逃げる連中の背中を見ている。その横にクァルードは、そっと俺の身体を下ろしてくれた。駆け寄ってきたシーラが、俺とクァルードを見比べるように視線を動かす。
「……ええと」
「まあ、びっくりするよな。なあ……カーライル」
「はい。コータ様」
俺が知った最初の名前で呼ぶと、龍王は当たり前のように返事をしてくれた。んー、人前でクァルードの名前呼ぶのはまずいだろうからもう、これからもカーライルでいいかな、と思う。
「……参ったな。お前さんだったのか、クァルードは」
「面目ありません、バングデスタ」
スティが掛けた声に、カーライルが目を細める。それから、ふっとシーラに視線を向けた。彼女、カーライルの前に膝をついて頭を垂れている。
「クァルード様とは……これまでの無礼、平にお許しを」
「本人も気づいていなかったのだから、謝ることではありませんよ。それに、カーライル・ドーとして生きることには慣れていますから」
うん、やっぱりカーライルでよさそうだ。
というか、変な展開で四天王全員見つかったな。……こうなるとほぼ、マール教との戦争まっしぐらかな。
前のときは全員いても負けてんだから、もうちょっと何とかしたかったんだけど。
「ひとまず、ここを離れます。コータ様、こちらへ」
「ん、おう」
カーライルに呼ばれて、その懐に近づく。さっきと同じように腕に引っ掛けられたけど、今度はそこから……えーと、腕の付け根だから肩だよな、そこに乗せられた。
龍の背中に乗る経験なんて、こういう世界でもなけりゃない話だよなあ。ちょっとラッキー、と思っておこう。
「ルシーラット、頼む」
「はい」
スティの方はシーラに抱えられ、俺たちはもうすぐ明けきる空へと飛び上がった。




