354.だんだん増える僧侶が相手
「……別れて、相手を引っ掻き回そう。森の中だし、俺は小さいからな」
「分かりました。私に何かありましたら、見捨ててお逃げください」
ひとまず、カーライルと離れて引っ掻き回す作戦を取ることにする。何かあったら見捨てろ、とはスティが言い残していたセリフだけど、同じことをカーライルも言うんだよな。
それは、最終手段だと思うぞ。
「こっち来んなあ!」
「ぎゃっ!」
森の中だから、どうしても集団行動には制限が出る。木の幹が邪魔だし、今は明け方で周囲が暗いしな。
だから、俺は木の間をちょこまかと駆け抜けながら一人、また一人を衝撃波でぶっ飛ばしていく。遠くまで飛んでいくか木の幹にぶつかるか、どっちにしてもしばらくは動きを止められるはずだ。
「そっちは大丈夫か!」
「性差でどうにか!」
少々数を減らしたところでカーライルに声を掛けると、僧侶の一人を殴り飛ばしながらそういう答えが帰ってきた。多勢に無勢というやつだから、この際手を上げても何も言う気はない。
まあ、カーライルの言ってることは何となく分かった。要するに男のほうが力が強いから、とかそれでどうにかなってるわけか。
つまりこの僧侶たち、戦闘特化ってわけではないんだな。
「この、おとなしく……」
「するかああああ!」
「ひぎっ!」
また一人ぶっ飛ばした、けどあーやばい、燃料切れっぽい。ここまで衝撃波、連射したことなかったからなあ。
倒れてる僧侶から吸えばいいんだろうけれど、こう次から次へとやってくると吸ってる暇がない。というか、数増えてないか?
「はあっ!」
バキッと、木が割れる音がする。多分、太い木の枝辺りをカーライルが拾って武器にしてるんだろう。あーもう、何でマール教の教会からぶんどった杖とか持ってこなかったかな。
「お前たち、敵はこっちだろうが!」
「スティ!」
俺がチョロチョロ逃げ回っていると、どうやら野郎どもをぶっ飛ばし終わったらしいスティが戻ってきてくれた。離れたところで一人の首根っこを引っ掴み、遠慮なく腹に拳の一撃を入れる。
「コータちゃん、とっととお逃げ!」
「だけど!」
そのスティの声に、思わず返事する。すぐ近くに、また別の僧侶がいたことにも気づかずに。
「ちょっとくらいなら、斬っても死なないでしょう! 邪神!」
「っ」
その僧侶、よりにもよって剣持ってるんだよな! めちゃくちゃ殺意あるじゃねえか、こんちくしょう!
と思ったときに目の前に何かが入ってきて、そこでどす、と音がした。
「がっ!」
「……え」
「あら。邪神を狙ったのに、愚か」
別の僧侶、ことおばちゃん……いや、ババアがにっと、とても楽しそうに笑う。血にまみれた剣を、引き抜きながら。
「ちょうど良いでしょう。神官には、死を」
俺の目の前で倒れたカーライルの血が、森の中に飛び散った。




