334.番外6:神都サブラナ最奥部
「アルニムア・マーダの本拠地は、突き止められたか?」
書類の処理をしていた教主は、入ってきた僧侶に対して前置きもなくそう尋ねた。問われた僧侶の方も不思議に思うこともなく、小さく「はっ」と頷いて答える。
「調査の結果、北方城でほぼ間違いないようです」
「そうか。まあ、南方は既に城の土台すらない状態だからな。拠点とするならば北だろう、とは思っていたさ」
いかなる手段を使って調査したものか。恐らくは人海戦術、というやつであろう。自分たちの信者を駆使してマール教の教主は、対立するマーダ教の本拠地を突き止めたようだ。
と言っても教主の言葉通り、消去法で当たりは付けていたのだろうが。
「西と東の砦も、神の拠点としては使えんだろう。東は下っ端共に巡回させているし、西は……コウモリ共が暮らしていると聞いたが」
「はい。バッティロスの村の住居地となっております」
「奴らも、自分たちの家が元は邪神の砦とは知るまいな。あの辺りは綺麗に潰したし」
洞窟の中に住まうコウモリ獣人たちの姿を脳裏に浮かべ、二人は軽くあざ笑う。だが、この者たちもさすがに、そのバッティロスの村を邪神その者が訪れていたことは知らないようだった。
日中であってもその色香を隠すことのない僧侶は、厚ぼったい唇を軽く尖らせた。そうして、自らの主である男に問う。
「いかがなさいますか?」
「北方城が今まで残っているのは、攻めづらい場所に建っているからだ。今の我軍を送っても、たどり着くことはまず無理だろう」
「鳥人や獣人をもってしてもですか」
「道が細すぎて、獣人では数を送ることができん。コウモリや鳥人などは空から行けるだろうが、風の様子を見計らってからでないと、近づくことすらできんな」
詳しい事情を、僧侶は知らない。北方城の立地など、かつての資料の中に記されている微々たる描写程度しか残っていないのだ。
それを、教主はあたかも自分が見てきたかのように答える。ニヤリと笑みを浮かべ、ひげの浮かび始めた顎を軽く撫でながら。
「ひとまずは様子を見る。本拠地から遠い、南部のマーダ教共を静かに殲滅しろ。女はいつもどおりだ」
「承知いたしました。そのように手配いたします」
教主の指示を受け、僧侶は深く頭を下げると部屋を後にする。教主の右腕とも言える彼女だが、昼間はこの部屋に長くいることはない。ゆっくり時間をとるのは深夜、大人の時間に限られる。
「しかし、龍王クァルードが見つからんな……こちらでも気配を探れんとなると、別の種族に転生でもしてしまったか、龍の里でおとなしく身を隠しているか」
だから、扉の向こうで教主が自分ではない誰かの所在を考えていても、僧侶には関係のないことである。たとえそれが、敵対する四天王最後の一人であったとしても。
「厳重に封じ過ぎたかな。アルニムア・マーダが龍王を蘇らせて龍人族を味方につけかねんと思って少々厳重にしたつもり、だったのだが」




