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322.彼らはいかに動くのか

「コータ様」


 ダルシアの話を聞いていたルッタが、少し考えたように口を出してきた。「何だ?」と問い返した俺に、彼女はほんのちょっとだけ笑ってこんな言葉で答える。


「西のマーダ教に我らのことを知らせるには、此度の一件は良い口実でもありますな」

「なるほど。確かにそうだな」


 多分、マール教のお達しやら教主の通達やらで、全世界にマーダ教が復活しつつあることはバレてるだろう。ただ、実際にどこらへんまで……というか、主神たるこの俺が復活してるなんてことはそこまで知られてない、とは思う。

 西には行ったことないから下僕もいないし、そうなるとダルシアの集落の話はちょうどいい機会、かもな。

 ……どっちに行ってもらうかだけど、自分の管轄だって言ってたしまあ、スティか。


「スティ、行ってもらっていいか」

「無論」


 なので振り返りつつ名指しで尋ねると、彼女は間髪入れずに大きく頷いた。スティであれば、泥棒退治に用心棒雇った、とかでも十分行けるしな。

 そのへんは本人も心得てるみたいで、言葉を続けてくれた。


「獣人が差別を受け、さらに食料を奪われているとなれば、黙ってはおれませんからな。泥棒退治に、ひとつ力を貸しましょう」

「あ、ありがとうございます! よもや、バングデスタ様のお力をお借りできるなんてっ」

「人前ではスティでいい。思い出すまでは、その名前で生きていたからな」


 ぺこっと頭を下げたダルシアに、念のための呼び名を伝える事も忘れない。

 ……ええい、これは組織トップのワガママを軽く通させてもらおう。ここからだと移動も大変だから、そのための要員込みで。


「それと、俺も行く。……ファルンを連れて行ったほうが良いかもしれないな」

「え?」

「だだだだめですようコータ様。御身に何かあったら、全世界の信者から私が恨まれますっ」


 スティはびっくりしたように声を上げ、ダルシアはあわあわあわと両手をばたばたさせる。連動して背中の翼もばたばたしてるのが、ちとおかしい。

 そんな中でルッタは、「なるほど」と何か納得してくれたようだ。


「ファルンは未だ修行中の身、ということになっているはずですから、西の地までの移動は楽ですね」

「そういうこと。面倒な手続きがあれば、下の村でやってもらえばいいし」


 いやもうほんと、マール教の僧侶一人いれば結構楽に動けるんだよねえ、この世界。

 それに、ぶっちゃけ俺も行ってみたいんだよな、ダルシアの育った集落。……そこらへんをうまくカバーするように、建前をくっつけて理由を話す。


「復活してから、西の方には行ったことがないんだよ。それに、少なくともマーダ教の信者なら俺の信者だ。ほっとけないし」

「ですが、コータ様」

「城の方は、ルッタに任せておいても問題はないだろ。カーライルもシーラもいるし」


 文句言うかな、カーライルのやつ。だけど、お前なら城の留守を任せられるって信頼してるんだぞ。それに、あまり人数連れて行くわけにも行かないし。旅から旅の当時ならともかく、今はここという本拠地があるからな。

 それと、ファルンを連れて行く理由はもう一つある。俺もスティもダルシアも、獣人なんだよね。だから多分、相手には甘く見られるはずだ。……実力はともかくな!


「相手は人間が大多数だろ。なら、ファルンが交渉役として入ってくれてもいいと思う。彼女はマール教の僧侶だし、同じ僧侶同士ならまだ話が通じる可能性が高い」

「そ、それは助かります……」


 うるうると涙目になるダルシア。やっぱり、話聞いてもらえないんだろうな。

 さて、そういうことならファルンやカーライルたちに話を通さないと、な。

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