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321.彼らに何があったのか

「さて」


 ファルンに下着を手配してもらい、俺が厨房に頼んでおいたかぼちゃのスープを腹に流し込んでダルシアはやっと落ち着いた。

 彼女をベッドの端に座らせて、その前にちょっと間を離してスティとルッタが立つ。俺はなんでか、二人の前に置かれた椅子に座らされた。……一番偉いから、らしいけど。


「ダルシア。そもそも、我らに何を望みに来た」

「あ、はい」


 一応獣の王、ということでスティが主に話を聞くことにしたようだ。ダルシアは一度頷いてから、ゆっくりと話を始める。


「私たちの種族は、ご存知とは思いますが洞窟の中で暮らしております。近くに畑を開いて、そこで食料になる果物とか野菜とかを育てているんですが」

「うむ」

「最近、その食料が盗まれるんです。それも、どうやら犯人がマール教らしくて」

『は?』


 さすがに、このクエスチョンマークはダルシア以外の三人で合唱になった。というか、マール教ってそんなに飯とか困ってないだろうに。元マール教でもあるルッタが、困ったように言葉をかける。


「いや、マール教もそこまで馬鹿ではないとは思うぞ。犯人が信者、なら分かるのだが」

「それが、一度盗まれてるところに出くわした者がいるのですが、顔を知ってる僧侶が指示してたそうで」

「発見者は、そこで文句はつけたのか?」

「相手が多かったみたいで、フルボッコにされて今でも寝込んでます」


 うわあ、何やってんだマール教。あと僧侶が指示してたって、エンデバルの時みたいに悪党が化けてるとかそういう話だったりしないだろうな?

 それと。


「何やってんだ? そんなの、そこの村に悪評が立つだろうに」


 そうそう、スティが疑問に考えているそこ。何で平気で泥棒とかするんだよ、近所の村って種籾強奪とかしょっちゅうやらかしてるどうしようもない村……でもなさそうだしなあ。

 ん、あーもしかして。


「……もしかして、教会のある村とあまり交流がないか、仲が良くないか、それとも」

「差別されているか、ですな」

「………………最後です」


 俺の言葉の後にスティがくっつけてくれた選択肢を、ダルシアは選んだ。

 何だそれ。洞窟の中に住んでて、自分たちの食べるものを畑で作って慎ましく暮らしてる種族だろうに。そんなに空飛べる獣人が怖いのか、お前ら! とマール教に面と向かって聞いてみたい。

 とはいえ、何か変なんだよなあ。その辺、突っ込んでみるか。


「差別されてるっつっても、食料盗まれるようになったのは最近だろ? それまではどうだったんだ」

「一応、きちんと決められた量を納めれば、お咎めはありませんでした。今もちゃんと納めてるんですけど」


 あ、そういうことね。それが、最近になって上納してるのに盗みに来やがった、と。

 最近あった状況の変化といえば……ルッタがこっちに戻ってきた、向こうからしたら寝返ったというところか。

 それで、マール教全体に教主から通達があって……あ。


「……教主が出してきた通達にかこつけて、地方の僧侶が暴走ぶっこいたかな。最近、マーダ教への締め付けが厳しくなってるらしいし」

「私のせいですね」

「アルタイラのことは、ただの口実だろ。奴らは俺たちを潰したくてたまらないだけさ」

「こっちの邪魔しなきゃ、俺だって喧嘩売るつもりはないんだけどなあ」


 ちょっと落ち込んでしまったルッタに、スティが苦笑しながら声を掛ける。確かに、ルッタがこっちに戻ってきちゃったのを口実にマーダ教を潰す準備しやがれ、って感じだったもんなあ、教主の通達。

 さてさて、どうするか。

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