314.帰り空での諸注意を
「では、万が一のときはあの砦にこもることにするよ。お嬢ちゃんたちもしっかりな」
「ありがとうございます」
工房の表で、挨拶を交わす。外なので、今までどおりの呼び方呼ばれ方だ。
東方砦が、ガイザスさんの知ってる鉱脈の近くにあったのが幸いした。俺たちから場所を伝えて、もしマール教に追われることにでもなったらそっちに移ってくれと頼んだのだ。
鉱脈が近いなら、そっちで設備を整えれば作業もできるしな。そのあたりは、プロであるガイザスさんたちに任せたほうが良いだろう。
「今後とも、よろしくおねがいします。ガイザス殿」
「おお、任せておけ。またすぐ会おうな」
対外的にはあくまでも鍛冶屋さんとお客さん、その立ち位置を貫いたまま、俺たちはドンガタの村を後にした。スティはルッタに、俺とカーライルは吊り下げられる形で。
「……大丈夫でしょうか」
俺を胸に抱きしめているカーライルが、小さくなったドンガタの村を見下ろしながらぽつんと呟いた。多分、俺が俺たちのことを彼にバラした、そのことを言ってるんだろう。
「ガイザスさんなら大丈夫、だと俺は思ってる。駄目なら……男だけど、俺が頑張るしかないかな」
だから、俺が自分の考えを伝える。ガイザスさんが俺たちのことを外にバラすつもりなら、あんまり気が進まないけれど吹き込むしかないもんな。
そうしたら、カーライルは何となく拗ねた。何だこいつ、よくわからんな。
「あまり、コータ様には男の精気を吸わないでほしいのですが」
「昔は基本的に男しか吸ってなかった、らしいじゃないか」
「ですが、今はそのお姿ですし」
「女吸うのも、どっちみちおかしいだろうが」
「……」
えーと、だ。
もしかして、獣人ロリっ子が野郎とキスするのが嫌ってか。保護者的感覚なのか、単なるロリコンなのか、それは考えないことにする。
まあ、絵面的に犯罪だろうなあと思いつつ俺は、「カーライル」とやつの名を呼んだ。ぽんぽん、と俺を捕まえていてくれる腕を軽く叩いて、そうして。
「大丈夫だよ」
「コータ様が、そうおっしゃるのであれば」
「ありがとな」
ただ、こいつは俺のことはずっと信じてくれているから。だから、その返事は俺が期待したものに間違いなかった。
ふと、一瞬だけぐらっと揺れた。はてなんだろう、と思ってたら上から声が降ってくる。
「……あのう。コータ様、自分からもあまり殿方を吸うのは良くないかと」
「あ」
スミマセン、俺たちはシーラにぶら下がる形で運んでもらってるんだった。ぶら下がるというかシーラがカーライルを抱え上げる形なわけで、俺たちの会話、彼女に聞かれてもおかしくはないんだよな。
「ありがとな、シーラ。俺が吸うのは、最終手段だから」
「本当に、そうなさってくださいね。カーライル、くれぐれも気をつけよ」
「分かっておりますよ、ルシーラット様」
そんな感じで俺たちは話をしながら、帰路をたどっていった。スティとルッタは何か、話してたのかな。




