308.無茶が通るぞ残念神官
「……」
ぷしゅー、という擬音がふさわしいんじゃないか、と思う。いや、ベッドに顔面からダイビングしたカーライル見ての感想なんだけど。
「お前、本当に武術や護身術をやっていないのか?」
「結構筋が良いぞ、カーライル。バングデスタの修行についていけるのだからな」
「あ、ありがとう、ございます……」
けろっとした顔のスティ、楽しそうに短剣を選んでいたらしいルッタのセリフに、起き上がる気力もないままカーライルは答える。
へー、虎姉ちゃんの訓練についてけるんだ。本気ですごくないか、お前。
とはいえ、基本的に肉体はそれなりにしっかりしてたからな。俺、見たし。
「カーライル、身体はしっかりしてるぞ。武装してたシーラ担いで、階段登れたからな」
「おや」
「元から身体できてるじゃないか。なんで何もやってないんだ」
人一人担いで階段登る、なんて言うのは結構重労働だ。それができる時点でカーライルは肉体派、だと思うんだがなあ。
ルッタもびっくりしてるし、スティなんて思わずカーライルをひょいと子供立たせるみたいに起こして質問してるし。
「あの、勉強のほうが大事だったんです……コータ様の封印されていた場所を探すのに、禁書や古代の書物などを調べなくてはいけなかったので」
「……それは仕方ないか」
あ、さすがにスティも手を離した。再びベッドの上にぺしょんとなるカーライルはほっといて、俺の方に視線を向けてくる。
「そういえば、コータ様を復活させたのはカーライル、でしたか」
「うん。で、その場にカーライルを追っかけてきたシーラとファルンがいてな。二人とも吸った」
「なるほど。それでルシーラットが復活できたわけですね」
あのときのことをものすごく簡潔にまとめて話すと、ルッタが感心したように頷いた。ほんとたまたま偶然、だったわけだけどね。
「ファルンはコータ様の下僕第一号となって今に至る、とそうなりますか」
「そういうこと」
スティに言われて、そういえばそうだなと思い返す。
俺の下僕ってもうだいぶ増えたけど、最初にそうしたのはファルンなんだよな。今でも時折吸って吹き込んでキープしてるけど、ナーリアの村の連中とかどうなってんだろうね。ここのジェイレンは大丈夫だったけどさ。
「つまり、カーライルも含めて今のコータ様にお仕えする最初の配下、だったわけですね」
「そう。ものすごく助かってるよ……ルッタとスティにも助けられてるけど」
「お褒めいただき光栄にございます、我らが主よ」
「もったいなきお言葉、このバングデスタ身に余る光栄です」
素直な気持ちを口にすると、二人はあっさり足元にひざまずいた。いや、そこまでやってほしいわけじゃないけど……ほんとに、いろいろ助かったんだからさ。
いやほんと、思えば遠くへ来たもんだ。




