299.砦の奥から宝物
ふと、ガイザスさんが俺たちの方に目を向けた。……ああ、女の子ばっかりで山の中にいるの、おかしいよな。特に獣人ロリっ子の俺とか。
「お嬢ちゃんたちは、何でわざわざこんな山の中まで来たんじゃ?」
「これを受け取りに来てました。大切なものだからって」
「む? こ、これはっ!」
隠しても仕方がないので、ここはクァルードの逆鱗を見せてみる。さすがに、この山にある砦に来たよなんて言えないし、逆鱗はレア素材だろうからな。
あ、ガイザスさんの目がくわっと見開かれた。あれだ、背景キラキラしてる感じ。
「逆鱗か! 確かに大切、という言葉じゃ足りんほど貴重な素材じゃが!」
やっぱりかー。というか、龍人族がほとんどいない今の世界で更に一人一枚しかない逆鱗、だもんなあ。レアの上にスーパーとかスペシャルとかいっぱい付くやつなのかね、うん。
表見て裏見てくるくる回して頬ずりして、って何をやってるんだろう、ガイザスさん。いや、どレア素材を前にしてものすごく嬉しいのは分かるんだけど。
……そうか。素材と鍛冶屋さん、というか武器屋さんが揃ってるんだよな。ダメ元で頼んでみるかな。
「盾に使ってください、って遺言があったんです。今お金ないんですけど、加工できますか」
「もちろんじゃ! 逆鱗の加工なんて一生に一度あるかないか、我ら地人族の夢じゃ! 金なんぞいるかい!」
「やった!」
ラッキー、と胸の中だけで拳を振り上げておく。まあ、一生に一度なんてことらしいから資金度外視にもなるか。
「よし、今からすぐに帰って加工するぞ。嬢ちゃんたちもついてこい」
「あ、はい、えっ」
今から帰って、って。
城を出たのが昨日の昼過ぎ。こっち来る途中で実は夜を越して、朝にここ到着。中に入ってヴィオンに会って、今夕方近くなんですけど! いくら何でも、ここからドンガタまで夜になる前に行けないだろ……あ、行けるかも。
「自分が運びましょう。スティ、お前は走れるな」
「だてにこの姿じゃないさ。山道は得意中の得意だ」
ルッタがそう、申し出てくれた。スティが山を走るってことは、分業で運ぶわけだな。
あれ、でも北方城には誰かが知らせておかないと。燕の子連れてこなかったしなあ……よし。
「……えーと、シーラお姉ちゃん。一度戻って、この話を伝えてください」
「しょ、承知しました。そうですね、帰りが遅いと皆心配しますから」
シーラも、一応部外者であるガイザスさんがいるので城とか何とか言わずに答えてくれる。こう、頭の回る配下だらけで俺は嬉しいぞ、うん。
でまあ、こういう言い方だとそうなるよなという理解をガイザスさんは素直にしてくれた。つまり、俺たちは家を手に入れました、という。
「なんじゃ、家でも出来たんか?」
「古い物件を見つけまして、条件が良かったものですから」
「そうかそうか。ファルン嬢ちゃんの修行も、また違った意味で進もうな」
「はい」
答えてくれたシーラ、嘘は言ってないな。条件のいい古い物件、なのは間違いないし。
ファルンの修行は……気にしないことにする。俺たちはマーダ教で、ファルンはマール教なんだから。違う宗派の修行なんてわからないし、と変な言い訳を作っておく。
「ガイザス殿、でしたか。あの、こちらはいかがでしょうか」
「そちらは?」
「こちらも逆鱗ですが、歳をとった龍人殿のものですので」
「どれどれ……むう、これは盾には無理じゃな。保存のために裏打ちするくらいなら可能じゃが」
「分かりました。それでお願いします」
変な言い訳を考えているうちに、ルッタがガイザスさんとの話をつけていた。そっか、ヴィオンの逆鱗ぼろぼろだもんな。長持ちさせるために加工してもらうんなら、そのほうがヴィオンも喜ぶだろうさ。
「しかし、一日に二枚も逆鱗を拝めるとはな。わしゃ、一生分の幸運をいっぺんに使うた気分じゃよ!」
山道を華麗にスキップしてやがる。よっぽど嬉しかったんだな、ガイザスさん。
クァルード、ヴィオン。多分お前らの逆鱗、しっかり手を入れてもらえると思うぞ。




