298.砦の山は宝の山
「お嬢ちゃんたち、久しぶりじゃな。何じゃ、この姉ちゃんは新しいお連れさんか」
「お久しぶりです! 二人とも、大丈夫だから」
「連れです。申し訳ない」
がっはっは、と笑うガイザスさんにシーラが頭を下げて、俺が初対面の二人を抑えた。いやもう、さすがにここで会ったが百年目、じゃなくて説明しないと。
「この人はドンガタの村の鍛冶屋さんで、ガイザスさん。今シーラお姉ちゃんが使っている剣を、作ってくれた人です」
「ん? ああ、噂には聞いたことがありますぞ。かの名工、ガイザス殿でしたか」
「……ドンガタの、ガイザス……ううわあ……」
ざっと紹介してみると、スティの反応はまあ分かった。ガイザスさん、鍛冶の腕良いし。
けどルッタ、なんでお前は頭を抱えてるんだ? 何かスティ、面白そうな顔してるし。
「ア……ルッタ殿。前にやらかしたな?」
「……少々無茶な納期で、武器を作らせたことが……」
「えー? ルッタお姉ちゃん、本当ですか?」
「何をやっていらっしゃるんですか……」
うっかりルッタの名前をフルで言いかけたスティ、のことは気にしないとして。
シーラの言ってる何をやってるんだ、というのは俺も同意。ただし、主にマール教向けだな。無茶な納期はんたーいこんな世界でも社畜はいらねえ!
まあ、こっちの世界に社畜なんて言葉があるかどうかはともかく、ガイザスさんも気持ち自体は同じだったようだ。
「ありゃあ、少々で済む問題じゃなかったぞ! 幸い、村の衆総動員できたのと少し納期を伸ばせたんで何とかなったんじゃが」
「申し訳ございませんでしたあ!」
さすがに怒鳴りつけられたのが聞いたようで、ルッタはその場に土下座した。この分はいつかマール教に返させる、として。
何かいろいろ、マール教には返さなきゃいけない気がする。全部のしつけて返した上で、代わりに何かもらえないかね。
なんてわけのわからないこと考えてると、ガイザスさんが「ん」と首を傾げた。
「というか、ルッタにバングデスタ? まあ、わしゃマーダ教寄りじゃからいいんじゃが」
「……」
やっぱり聞きとがめられてた。バングデスタ、は獣王の名前だから仕方ないし、ルッタは……マーダ教に寝返りました気をつけてね、なお触れが住民一般にまで広まってる、と見て良いわけだな。
そして、マーダ教寄り。……ルッタはじめマール教が納期無茶振りしてるのが常習犯だったら、そりゃ嫌だよな。そういうことにしておこう、うん。
「ガイザス殿は、なぜこちらまで? ドンガタからは距離がありますが」
「こっちに魔術石と、それから良い鉄の鉱脈があるんじゃよ。それで、自分の目で確かめてから採りたくて来ておるんじゃ」
シーラが何とか話を変えると、ガイザスさんもそれに乗ってくれた。
そうだ、もともと魔術石の鉱山だったところに東方砦は出来てるんだもんな。すぐそばに鉱脈があっても、それで鍛冶屋のガイザスさんが来るのもおかしくない。
なるほどなあ、と俺を含めて全員が感心のため息を漏らした。




