288.彼女の報告その中に
カーライルが一瞬だけ考えて、口を出してきた。今一番やらなきゃいけないこと、だしな。
「念のため、救援の手配をいたします」
「うん、頼む。シーラを使っても良いが」
「アルタイラ様が敵と出会って動けない状況、である可能性もございます。その場合敵はアルタイラ様が敵わない相手、と考えるのが妥当でございましょう。故に、こちらの守りが薄くなりますがバングデスタ様にお出ましいただくのが最良かと」
だよねえ。いや、シーラ使っていいってのはつまり、彼女が一番移動速度が早いだろうからなんだけど。でも、カーライルの言う通りルッタが敵わないというか同等以上の相手が出てきてるとしたら、シーラじゃ当然相手出来ない。逃げるだけでも大変だろう。
なら、こいつの提案に乗るっきゃねえな。
「分かった。シーラで運べてその方が早いなら、運んでやれ」
「承知しました。では取り急ぎ」
「頼む。あと、ファルンあたり呼んできてくれ。なんだかんだでルッタ、情報くれてるから」
「分かりました」
部屋を出ていくカーライルに指示を飛ばし、扉が閉じてから改めてルッタの手紙に目を通す。俺がはっきり内容掴んでおかないと、他のやつに説明できないもんな。いや、説明してもらうものもあるんだろうけれど。
「カーライルさんから伺いました。ルッタさんが大変ですとか」
「うん。それで、お前から助言がほしい」
名前を出したせいか、カーライルはちゃんとファルンを呼んでくれたようだ。彼女に俺の横の椅子を勧めて、二人で手紙を覗き込んだ。
さっき読んだ冒頭を除くと、大体が東方砦についての報告になっている。大雑把に言うと、薄汚れてはいるけれどそれなりに使える施設は残っているようだ。そうして、その中にあった記述が気になった。
『龍人の気配あり。地下に一名、老いた男性が存命。エンデバルにて数名、幼い者が生活との情報を得る』
「龍人族で幼いって、どのくらいの年齢だよ」
「わたくしも詳しくは知りませんが、他の種族でいえば十分成人している年齢ですわ。それより年下ですと、親元で生活している……らしいのですが、何しろ本物にお会いしたことがございませんので」
「あー」
ファルンに聞いてみても、推測の域でしか答えを得られなかった。
そういえば、龍人族は引きこもってるか他の種族に化けてるかでした。そりゃ、ちゃんと龍人族と分かって会ったことなんてほとんど皆ないわなあ。
ただ、その龍人のじいちゃんがルッタに言ったことを信じるなら、つまり。
「まあ、要は何人か、龍人族がほかの種族に紛れて住んでるわけね。エンデバルだから、人間に化けてるあたりが妥当かなあ」
「獣人や鳥人の方々の扱いが、いまいちでしたものねえ」
「あの宿の主人とかなー」
ファルンとカーライルのおかげでそれなりにちゃんと客人として扱われたけれど、あの……えーとサルなんとかだっけ、勇者の子孫で宿の主人。できればあまり会いたくない顔だねえ。
『なお、龍人は老年のため地下より出ることは叶わず。神の復帰を喜んでいる』
だけど、この一文のおかげで俺は、久しぶりに自分で動く気になっているんだよな。このじいちゃん、俺が戻ってきたこと知って喜んでくれてるってことなんだぜ。地下から出られないのにさ。
「……何とかして、行ってやりたいなあ」
「……そうですわね……」
ファルンも気持ちはわかってくれてるみたいだ。
あー、これなら先にここまで読んでからカーライルを動かすべきだったな。




