279.かみさまはおやすみです:昼
「りゅうのおうさまは、かみさまのぶかになることになりました。そうすればきっと、りゅうじんたちがしあわせになれるとおもったからです」
ベッドでごろごろしつつ、ミンミカが読む絵本を一緒に見ている。
タイトルは『りゅうのおうさま』。何でもベストセラーで、マール教信者ならだいたい中身は見たことがあるはず、のものらしい。つかこの内容、龍王クァルードがサブラナ・マールに負けてその配下にされるって話なんだよねえ。固有名詞出てないけど。
「……そのあと、りゅうのおうさまをみたものは、だれもいません。もしかしたらやまのなか、うみのなか、ひょっとしてひとのなかでぐうぐう、おやすみになっているのかもしれませんね」
その文章で、この絵本は終わる。マール教側も、かつての戦争の後クァルードがどうしているかは知らないらしい。
ま、ルッタやスティ、レイダといった他の四天王がふつーに生まれ変わって生きてるんだから、クァルードもそうなんだろうなと連想はできるけど。
「龍の王様、か」
「おなまえはでていませんけど、クァルードさまのことだよ、ってちっちゃいときにおとうさんやおかあさんからおしえてもらいました」
「そっか」
ミンミカたちには、ココらへんはちゃんと伝わっているらしい。ま、隠れマーダ教だもんなあ。そりゃ伝えてくれるか。ありがとうな、皆。
にしても。
「見つかんないなあ、龍王クァルード」
「ミンミカ、りゅうじんさんもほとんどあったことがないので、あってみたいですー」
そうそう。龍王どころか、龍人自体の数が少ないわ引きこもりだわで、俺はこっちに戻ってきてから一度も会ったことがない。早く会ってみたいんだけどな。
つか、龍人てどんなんだ。やっぱりトカゲっぽい外見だったりするのか、それとも尻尾だけ付いてるのか。鳥人みたく、さまざまなバリエーションがあってもおかしくはないけど。
そんな事を考えていたら、閉じた絵本をしまったミンミカが「あ、そうだ」と手を叩いた。
「でもりゅうじんさん、あっててもわかんないことがあるってききました!」
「そうなの?」
「こじんさがあるけど、りゅうじんさんはほかのしゅぞくのかっこうもできるんだって、おかーさんがいってたです」
「マジかー」
変身能力あるのかよ! 便利だな龍人!
と言うか、待てよおい。
「……ってことは、今まで会った人の中に龍人族がいるかも知れないってことか」
「ですです。でも、おそとからはみわけつかないって」
「じゃないと、紛れ込めないよなあ」
引きこもりじゃなくて、他の種族に紛れて生活してるから見つからないってパターンもあるのか。
しかしそうなると、余計にクァルード探すの大変だなあ。
……なんてこと考えてたら、唐突に腹減った。普通の食事じゃなくて、あっちの方の。
ちょうどいいや、目の前に一人いるし。
「ミンミカー」
「はい?」
「はらへったー」
「ごはんですか? それともミンミカですか?」
「ミンミカ」
ご飯ですかお風呂ですかそれとも私、な決まり文句は多分こっちにはない、と思う。故にミンミカの出した選択肢はマジでそのままで、俺が訴える空腹が二種類あるってのがそもそもの原因だよな。悪い。
「はいです。どうぞ、コータちゃま」
「おう」
まあ、何の問題もなくOK出してくれるので助かるけどさ。それじゃ、こっちの空腹を満たすとするか。
ベッドの上だけど、吸うだけだからな?
「では、いただきます」
「おあがりください……んっ」




