277.生活安定いいですか
「はい。こっちはズライドンに、こっちはボイドールに。それぞれの長に、渡してくれ」
スティやルッタに文面をチェックしてもらった手紙を、使者として来てくれた二人に手渡す。中身間違えないようにちゃんと宛名書きもしたからな、大丈夫だ。集落トップの名前は、二人がちゃんと教えてくれたし。
「こちらからはズライドンにはシーラ、ボイドールにはアムレクを同行させる。種族の皆によろしく言っておいてくれ」
「はい。コータ様直々の使者として、恥ずかしくないよう振る舞ってまいります」
「ぼくもがんばります!」
で、さすがにそのまま帰すのもアレなんでこちらから逆に使者を送る。シーラは付き合いが長いし、アムレクはちょいと気弱だけど最近だいぶ自信がついてきたみたいだしな。
ファルンはマール教だしカーライルは俺の執事みたいなことになってきたしで、そばから離すのがちょっとためらわれる。ミンミカはミンミカだし。
「承知仕りました。コータ様のお話、我が種族に伝えます」
「我らが種族は、すぐにもコータ様の配下となりましょう」
「うん、お前たちが力を貸してくれると嬉しいな。まずは、ちゃんと生活できるようにしよう」
「はい……え」
あれ。俺、なにか変なこと言ったかな? ボイドールの反応が、ちょっと何言ってるのかわからないですって顔だし。豚だけど。
ズライドンも眉……はないけど、そこらへんをしかめながらこちらを伺っている。
「生活から、ですか」
「そうだよ」
「そのとおりだ。いずれサブラナ・マールとことを交えるとしても、まずは民が落ち着いて生きられる基盤を整えることは大切だ。戦には力も飯も、民も必要だからな」
あ、スティが割って入ってくれた。そうなんだよねー、飯食えて普通に暮らせたほうが、もし戦争とかになっても各自の体力保つもんな。これはガチバトルだけでなくて仕事でも、趣味でもそうなんだけど。
俺、向こうの世界だと飯はともかく睡眠なかなか取れなかったからなあ。そうすると結局、仕事の効率悪くなるからな。それでダラダラ長引いて、以下悪循環。
こいつらには、できればそんな経験はしてほしくないからなあ。……いつかはどこかでそういうのが出てくる、とは思うけど。
「我ら下々の身を慮っての、コータ様のお言葉だ。よく肝に銘じよ」
「は、はい!」
「そのお言葉も、全て長にお伝えします!」
ともかく、俺の気持ちを代弁してくれたスティに対してボイドール、ズライドンは深々と頭を下げてくれた。
「フォローありがとな、スティ」
「これも、我ら配下の重要な役目ですので」
城を出ていくズライドンたちを見送りながら、何でか俺を肩に乗っけているスティに礼を言った。いや、肩乗りにじゃなくてさっきのフォローに。
「さて、今後はどういたしましょう」
軽い返答の後、彼女は俺に問うてきた。どう、とはまあ何をするか、だと思う。
何をするか、か。メインの事務処理はカーライルと、表に出せないファルンに頼んでるし、お城の内装とかもチュリシスとネズミ獣人たちが張り切ってくれてるし。
……。
「熊獣人と豚獣人の方は向こうから返事来てからだから……ちょっと時間空くかな。休みたい」
「ではそのように。……お疲れですか」
つい口に出てしまった本音も、案外何とかなるものらしい。スティの口調に、こっちを気遣うような感じが入ってきた。
そっか、俺疲れてたのかも。社畜時代より身体ちっこいし栄養……はまあいいとして、忙しいし。
「こっちに戻ってきてから旅して旅して、城に入ったら入ったでいろいろ事務処理とかあるからな」
「我々も働いておりますが、コータ様のお許しをいただきたい作業もございますからな」
上司や社長の許可やハンコ、ってこんな世界でも重要なんだよねえ。で、今ここで一番偉いのは俺なので、俺がOK出さないと進まない案件だってあるわけよ。
下っ端だった頃はおのれ上司、とか思ってたけど、上司は上司で大変なのな。そうなるといわゆる中間管理職って、板挟みで大変だったんだろうなあ……あー、ほんともう社畜時代思い出したくねえ。うん。
「その辺りは俺のところである程度まとめておきます。どうぞ、お休みくださいませ」
「ありがとう」
だから、そういうふうにやさしく言ってくれたスティの言葉を、ありがたく受け入れることにした。




