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026.路地裏うさぎと悪党と

「ぐおっ、げふ、……っ!」


 顔面とボディにパンチ一発ずつ、あと急所に蹴りをぶっこんで悶絶させてから、シーラは爽やかに……いや、少々邪悪に笑ってみせた。ははは、いたそー。


「これは衛兵に引き渡しましょうか」

「お願いします、シーラ殿」

「衛兵さんと教会に連絡してまいりますねー」


 カーライルは男なんだけど、戦闘ではいまいち役に立たないっぽい。そのため、基本こういう時は俺のそばにいるようだ。ファルンも、戦闘はシーラに任せることにしているらしい。

 で、ファルンは教会へ向かうために駆け出していった。おっさんは白目剥いて泡吹いてるから大丈夫だろうし、あのお姉ちゃんを回収すっか。


「だいじょうぶですか?」

「ふぁい」


 獣人とはいえ小娘なんだから、この中では一番怖がられないだろう。そう思って俺が彼女に近づいていって……気がついた。

 白い髪、と思ったけど一部はアレだ、長い耳。ぴるぴる震えてるのがわかる。手で隠れてた口元もふくふくしてるし、そもそもその手がふわふわの毛皮。目は黒いけど。

 なるほど。彼女、ウサギの獣人なんだな。見えないけど、きっとしっぽもあるんだ。


 ……うまそう。

 いや、さっき飯食ったばっかだろ、俺。


「コータちゃん?」

「あ」


 後を追ってきたカーライルが声をかけてきたところで、はっと我に返った。

 いかんいかん、そうほいほい吸ってるわけにもいかないよな。つか、昔の俺はこれを男相手にやってたのか冗談じゃねえやってられっかあほんだら。


「後になさってください。取り調べがあるはずですので」

「わ、分かりましたあ」


 ひそひそと耳元で囁かれたので、慌てて頷く。頑張れ俺、幼女の外面はずすなよ。

 と、カーライルが着てたジャケットを脱いで「これを彼女に」と渡してくれた。俺の時みたいに、着せてやれってことか。


「これ、どうぞ」

「あ、ありがと、です」


 胴体の前面、つまりおっぱいから下っ腹にかけては毛が薄くて、だから普通に見えるっちゃ見えるんだよね、この彼女。だから、カーライルのジャケットを渡してやると小さく頭を下げて、いそいそと袖を通した。


「あのう」

「コータです。あっちはカーライルとシーラ、さっき出ていった僧侶さんはファルンです」

「ミンミカ、です。たすけてくれて、ありがとです」


 前を閉じたところで、お互いに名乗り合う。ミンミカというらしい彼女、ちょいと片言だな。俺らみたいに田舎から出てきたのか、住んでたところか種族の特性か、そこら辺は分からない。言葉が通じないわけではないから、特に問題なさそうだけど。


「衛兵か僧侶のところで取り調べになるとは思うが、大丈夫か?」

「は、はい。あの、まだなにも、はい」


 カーライルは、距離をとったままミンミカに尋ねる。まだ何も、ってことはまあその、えらいこっちゃにはなってないってことだよな。

 俺とカーライルはそれでいいんだけど、シーラがふんと鼻息を荒くして。


「役に立たぬようにしておきます」

「んごぉっ!」


 うわあ、もう一撃入れちゃったよ。いやまあ、役に立つことはなくなっただろうけどさ。あーあ、何か漏らしてるし。

 こういう時は、この身体でよかった……とは思わねえよ。モノなくても痛いものは痛いだろうし。

 そんな事考えてたから、シーラの叫びには一瞬反応できなかった。


「カーライル!」

「くっ!」

「ひゃあ!」


 いや、呼ばれたのはカーライルでこいつは即座に俺をかばうように屈んだから、それでいいんだけど。下がったカーライルの頭があった辺りを、シーラの剣がまっすぐ伸びていってがつ、と何かに当たる。


「ザック、何やってんだてめえ」

「面倒持ってくるんじゃないよ、ったく」


 剣の先端に当たったのは、多分棍棒か何か。ありあわせの木を持ちやすく加工した、って感じの。

 それを持っていたのは犬耳の獣人、ミンミカよりは人の顔に近いタイプ。犬耳、右側の先端に大きい切れ目が入ってる。

 その後ろから、鳥顔の鳥人が姿を現した。眉、つーか目の上の羽がやたらゴツく見える。

 二人ともマントつけてて、薄暗い路地だとちょっと見えにくいかもしれないけど、顔はばっちり分かった。。


 獣人と鳥人。ってことはつまり、白目泡吹きなおっさんの、仲間か。

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