268.狼さんの生活は
「おや」
案内されて進んでいくと、背丈の低い木々がだんだん少なくなっていく。そのうち視界が開けて、広場に出た。広場っていうか、うん。
柵である程度のスペースを囲ってあって、中にふかふかの羊たちや、向こうには長毛種のヤギとかもいる。
ここ、牧場なんだな。牧場ってことはつまり、家畜を飼育している場所なわけで。
「家畜、飼ってるんだ」
「ええ。森の中で獣を狩る生活では、どうしても食い扶持が安定しませんのでね。それに家畜を育てていれば、現金収入を得ることもできますから」
「なるほどな」
ゾミルの説明を聞いて、納得する。そりゃそうだ、狼獣人たちだって、飯食わなきゃ生きていけない。それは当然のことで。
ミンミカたち草食系でも、野菜とか確保しなくちゃいけないんだもんな。ゾミルたちのような肉食系なら、もっと大変だろう。特に彼らは定住してるようだから、狩りばかりしてたらそのうちここらへんの獣、食い尽くしてしまうものな。
あと、現金重要。ちゃんとしたお金があれば、欲しいものを買うことができる。それで、皆の生活も良くなるはずだ。
物々交換でよかった時代に比べると、ホント大変だな。
「族長の住まいは、こちらの奥になっております」
そんな事を考えつつ羊やヤギなどが飼われている柵の間を通り抜けると、彼らの住居らしい掘っ建て小屋がいくつも目に入る。地面から冷えたりしないかな、なんて思うんだけど俺は狼じゃないから、そのへんは分からないな。
その中で一番奥にあるのが、多分族長さんの家だ。入り口の両脇に狼さんたちが二人ほど立ってるし、掘っ建てなのは他の家と変わりないけれど、毛皮で外壁を装飾してるし。
……毛皮?
「くまさんのにおいです。たぶん、やぎさんとかたべにきたのでやっつけたですね」
「あ、そうか」
ミンミカが教えてくれて理解した。そうだ、獣人じゃない熊がいてもおかしくないよな、この森。
そいつらにしてみたら、狼獣人が育ててる家畜って格好の餌だ、文字通り。
で、そいつを返り討ちにして、いろいろ利用してるってことか。なるほど。
「族長。お客人をお連れいたしました」
「通しなさい。外は寒いじゃろ」
その熊皮らしいカーテンの間から顔を突っ込んで、ゾミルが中の人と会話してる。見張りらしい狼さんずはスルーだから、彼女本当に族長の娘、で間違いないか。そうでもなきゃ止めるだろ、あの二人。
「どうぞ、お入りください」
「ありがとう」
ゾミルがこっち見て言ってくれたので、配下たちを連れて……あー、さすがにスティはちょっとでかいか。
それに、邪神が直属の配下ってーか幹部連れて入るのはなあ。相手がごっついおっさんとかならともかく、聞こえた声はそこそこ年かさの女性だったし。こっちも一応、全員女性だけどさ。
「スティ、念のため外で待っていてくれるか」
「承知いたしました」
「ありがとう。頼むよ」
頭を下げてくれたスティを外に残し、俺はシーラとミンミカを従えて中に入った。




