250.敵は四天王、味方も四天王
「があう!」
「ふんっ!」
がぎん、と金属がぶつかりあう音がした。ルッタの剣とスティの爪が、ぎりぎりぎりと力勝負に入っている。って、剣受け止められるのか、あの虎の爪。すごいな四天王。
力勝負はほんの数秒くらいで、すぐに二人は飛び離れる。スティが地上型のせいか、ルッタも空に飛び上がるってことはないようだ。そういえばシーラもそういう傾向あるし、鳥人でも剣士だと地上で戦闘、って感じなのかな。相手が同類だった場合は除く。
「はあっ!」
「来い!」
剣を構え直し、ルッタが再び突っ込んでくる。今度はスティは向かっていかず、攻撃を受け止めるつもりのようだ。
あっという間にぶつかった、と思ったんだけどルッタの剣はスティの身体をするん、と滑ってそれた。え、何で?
「! 滑るっ」
「獣人たるもの、毛皮のお手入れは当然だからな!」
「まあ、それは分かるけど」
「きちんとおていれするとあぶらがでて、あめをはじいたりするですよ」
ミンミカ、解説ありがとう。そういやシーラたちの翼も雨弾くんだよな、それが全身ってことか。
で、油のせいで剣が滑ることもある、と。
「はっ、ふっ、おおおっ!」
「がふっ!」
だから獣王バングデスタは敵の切っ先を恐れることなくその懐に飛び込み、拳を打ち込むことができる。さすがに目の前にいるから、ルッタは剣を振る余裕もなく打たれっぱなしだ。とはいえ、あれで終わるかねえ?
「どおりゃあっ!」
「甘い!」
ま、終わらないよな。
スティの拳が一瞬大ぶりになった隙をついて、ルッタがバックステップ。同時に翼を羽ばたかせて、普通に後ずさるよりも距離を取ることができた。
「こちらから参る!」
「そっちこそ甘い!」
「がはっ!」
そのまま、ルッタは空から剣の切っ先を前方に固定する形で突っ込んでくる。翼だけである程度速度は出せるから、案外便利だな鳥人。
ただ、基本まっすぐ来るわけで、それをスティは待ち受ける。ぶつかる一瞬前にひょいと身体を剣のある側と反対にかわし、バランスを崩しながらそちら側の足を振ってルッタの身体を蹴り上げた。
……男だとものすっごく痛そーな一撃だったけど、多分女でも痛いよな、あれ。
「我が名は獣王バングデスタ。この意味が分かるか」
地面に倒れたルッタが、それでも上半身を起こしつつあるところにスティが声を掛ける。うーん、あそこから抑えてくれれば吸えると思うんだが、ここはもう本人たちの好きにさせるか。
「地に足をつけた状態で、獣の王が負ける相手など世にさほどおらん。そしてルッタ、お前はその中に入っていない」
「邪神のしもべが、ふざけたことを抜かすな」
「その言葉、忘れるでないぞ」
やっと立ち上がったルッタが軽く血を吐きながら苦々しく言った台詞を、スティは牙をむき出しにして迎えた。




