243.やるべきはどんなさくせん
「ふーむ」
帰り道、またシーラに背もたれになってもらってると御者台から串焼きくわえたまんまのジランドの声が聞こえてきた。牛車が動き始めてから何か考えてはいたみたいだけど、それでもちゃんと牛コントロールできるのはさすがだよなあ。
で、さらにジランドの声は続いた。
「やはり、虎の姐さんがお目当ての方っぽいですなあ」
「だよなあ」
「おそらく、彼女がバングデスタ様でしょうね」
「自分もそう思います」
やつの意見には俺も含めて、ここにいる全員が同意した。というか、レイダやルッタもそうなんだけどうまいこと俺の前に出てきてくれるから分かりやすい、というか。
多分、あのスティ姐さんがバングデスタだ。周囲に人が多くて吸うわけにはいかなかったから、何とか再チャレンジしたいんだけどなあ。
「コータ様、どうします? 配下に加える気はあるんでしょう」
「あるよー。ルッタと違って友好的ぽいし、吸えれば多分何とかなるはずだから」
カーライルの問いに、俺は全力でぶっちゃけた。ごめんなシーラ、ルッタについては拘束なり何なりしないと今の状況、吸うのは無理だし。
「そうですね……ルッタ様は何とか戦闘不能にできれば良いのですが、バングデスタ様のお力を借りることが可能であればやりやすくなりますから」
「あー」
そのシーラも、思い切りぶっちゃけてくれた。ああそうか、四天王の一角である獣王バングデスタなら翼王アルタイラと戦闘能力はそこそこ拮抗してるだろうしな。
ルッタのことは後回しにして、まずはスティだな。ひとまず、メイヒャーディナルの峠に行けば会いやすいのは分かっている。
要するに、だ。
「明日も峠に行ってみたいな。日の出を拝みに行く、ってことにすればもう一回行っても問題ないだろ」
「確かに」
ちょっと無茶なスケジュールだけどな。今からクルンゴサに戻って宿で寝て、夜明け前に起きて峠に戻るってことになるし。
その際、一番大変なのは牛車を使うジランドとコングラなんだよね。あと牛。
「二日連続で峠参りって、大丈夫か?」
「ああ、距離自体は大したこっちゃありませんや。これより面倒な仕事なんざ、いくらでもありますから」
「そっか」
一応ジランドに尋ねてみると、まあそう答えるよなって返事がかえってきた。確かに距離はそんなにないんだけど、狭い山道だから大変だろうに。
……そこを無理させるのが邪神、ってところかね。
「ただ、日の出を拝むならもっと早く出ないといけませんから、今日はさっさと戻りますぜ」
「そうだな。頼むよ」
「おまかせを」
ひとまず、無理してもらうことに俺は決めた。何とかしてスティにもう一度会って、周囲の隙を見て吸ってやらないといけないし。
ルッタをこっちに引っ張り込むためにも、スティをバングデスタにしておきたい。
……あー、えらく大変だなあ。
「しかし、この串焼き美味いですな」
「あの屋台の串焼き、いい味ですよね」
牛車内の空気を変えるためかただの本音か、ジランドとカーライルがのんきに話題を変えた。いや、確かにネズミ兄ちゃんが焼いてくれた串焼き、マジで美味かったけど。
「では日の出を拝んだ後、店が開くのを待ってもう一度屋台に行きましょう。自分も、串焼きの味は好みです」
「そうしましょう。コータ様、じゃがバターもお気に召されたようですし」
「うん、マジ美味かったし。ただ、俺一人であれひとつは無理だわ」
「芋、大きかったですしね。皆で分けてよかったです」
いやほんと、じゃがバターも美味。ただし子供には分量が多いので、保護者と分けるのをおすすめする。
とりあえず、腹の方は街まで保つはずだ。後は晩飯食って寝て、明日の未明に再出陣。頑張るぞ。




