228.教会前はのんびりと
入口から程なく、ほんと一分もかからずに牛車は教会前に到着した。石畳の広場がどーんとあって、牛車の乗り降りにはちょうどいい場所になっている。屋台とかあればいいのに、ただの広場ってのはちょっと寂しいかな、と思う。
「着きましたぜ。あ、よっこいしょ」
「ありがとうございますー」
ジランドの声に応じて、俺たちは牛車を降りる。俺は小さいから、客車からコングラが両手で腰持って降ろしてくれた。一応外見ロリっ子だから、そういう扱いじゃないと怪しまれるしな。
で、くるりと見渡すと、広場からちょっと離れたところに牛車がいくらか整然と止まっている場所を見つけた。んもー、んもーと大変のどかな鳴き声が、かすかに聞こえてくる。
コングラも同じところに目を留めたようで、俺たちに声をかけてきた。
「駐車場があるっすね。入れてきますんで、先入っといてくだせえ」
「お願いしますね」
「はいよ。コングラ、先導頼む」
「お任せっす」
「いってらっしゃーい!」
ファルンがにっこり笑って答え、皆揃ってジランドたちを見送った。アムレク、両手バタバタってアクションでかい。
にしても、牛車がその場所に入っていく様子は……ああうん、確かに駐車場っぽい。コングラが先導任されたのは、あんまり通路が広くないから他の牛車とぶつけないように、ってことだな。あと、牛同士が喧嘩にでもなったらえらいこっちゃ、だろうし。
にしても、駐車場……まあ、牛車を駐めるんだから駐車場か。言われてみれば、自動車を駐めるだけが駐車じゃないか。こっちにそんなもんないし。
うむ、そういうことにしておこう。あと、牛車はあいつらにまかせとけばいいさ。プロなんだから。
それはそれとして。
「他にも、峠詣での方々がいらっしゃるようですね」
「そうだな」
相変わらず夫婦っぽい会話になってるのは、カーライルとシーラ。ただしかかあ天下、まあ当然か。
そのカーライルの指摘どおり、この広場では数組のパーティがマップか何からしい紙を広げてあーだこーだと話し込んでいる。
うちみたいに修行中の僧侶一行らしい連中もいれば、どう見ても金持ちが道楽旅行中ですな御一行もおられる。服装で分かるなー、うん。
で、普通の教会と違って丸っこい屋根のついた建物がここの教会、なんだよな。丸い屋根のてっぺんに、これは他のところと同じ紋章が飾ってあるから。別の紋章だと分からない、なんて理由だったりしてな。
「それじゃ、まずは宿に行きましょうか」
「それより、牛車を予約したほうがいいですわ」
「お腹空きましたー」
今、教会から出てきた男女女の一行は、修行組だな。女性が二人ともファルンと同じ僧侶の服で、男性は革鎧着てるから護衛か何かか。
他のパーティが見てるのと同じ紙を見ながら、ああでもないこうでもないと会話しつつ俺たちの前を通り過ぎていく。もしかしてあの紙、地図じゃなくて予定表とか宿のリストとかか。この教会、もしかしてツアコン?
「そちらのご一行様。御用でしたらどうぞ」
「ありがとうございます。皆さん、入りますわよ」
教会の入口から顔を出したとっても小柄、俺よりちょっと大きいくらいの僧侶さんがこっちに声をかけてきた。ファルンが礼を述べて、それから俺たちを呼ぶ。
「では、行きましょうか。コータちゃん」
「はーい。シーラお姉ちゃんも一緒にー」
「もちろんです」
せっかくなので、俺はカーライルとシーラの間に入る。擬似親子っぽくて、まさか邪神とその配下だなんて怪しまれたりはしないだろ。
「おにーちゃん、きょろきょろしてないでいくですよー」
「あ、うん」
この状況で一番慌ててたのは、あちこちふらふらしかけてたアムレクを追いかけてるミンミカであった。アムレク、お前そんなんだからミンミカもお前も大変なことになったんだな。もう少ししっかりしろ、まったく。




