221.後はお前らに任せたぞ
「……あ」
ふいに、何かの気配を感じた。シャングリアも気づいたようで、しばらく目を細めていたがすぐに頷いた。気配でも読んでたのかね。
「獣人の賊、のようですね」
「獣人?」
ありゃ、そういうやつがいるのか。もっとも、庵主様の集落から少し離れているしなあ。森の中でもあるし、出てきたりするか。
でも、夜に動く獣人ってことは鼻が効きそうでちょっと怖いんだけど。具体的に言うと、俺のこと見つかってるんじゃないかって。
「匂いでバレたりしてないのか?」
「あの手合は夜目に頼って動いておりますし、どうやら既に別の獲物を捉えているようです。恐らくは大丈夫かと」
「へえ」
そこまで分かるってことは、多分話し声とかそういうのも捉えていたわけか。マール教教育部隊、さすがに兵士自体の教育やレベルも行き届いているな。
で、そういうのを見つけたことでシャングリアが、俺に向かってにっこり笑ってみせた。
「ちょうどいいでしょう。あれを戦の場に乱入させれば、ルッタ様もシーラ様も戦どころではなくなります」
「できるのか?」
「お任せを。ご主人様はお仲間の元へお戻りくださいませ」
「あ、うん」
まあ確かに、あんな賊どもが乱入してきたらなあ。ルッタもシーラも、とりあえずそっちたたっ斬る方向にシフトするだろ。
どうやってやるのかは知らないけれど、そこらはシャングリアに任せることにする。
……で、ふと気がついたことがあったので、そこだけ。
「俺の名はコータだ。サングリアスも知っているから、その名を出せば同類であることは分かるはずだ」
「承知いたしました、コータ様。では、またの日に」
「ああ」
ご主人様、じゃあサングリアスも同じやつの下僕だ、ってわからないかもしれないしな。
そんなことを考えつつ、木々の中をするすると進んでいくシャングリアの背中に手を振った。いや、けしかけたの俺だけど、大丈夫かなあ。
しばらく、しんと静かになった。森って夜でも動物の鳴き声とか、風にそよぐ葉の音とか結構するもんなんだけど、それがない。
怖いなあ、と思ってまた、ほんの少し。
「いたぜ」
「部隊の女が一人か。なら、行けるだろ」
あんまり静かなんで、ひそひそ話だっただろう賊共の声がここまで届いてきた。距離はそれなりにあるようで、部隊の女一人って言ってるから見つけたのは多分シャングリアのことだろう。
そのうち、声のしたほうがざわざわと騒がしくなってくる。声の位置もだんだんと俺から離れて……というか、シーラとルッタのいる方向に移動してる。
「おい、そっち行ったぞ!」
「わしが追い込む!」
おーい、作戦会議丸聞こえだぞー、とツッコむのも野暮だよな。ま、シャングリアは分かってて誘導してるわけだし、そろそろシーラたちも気がついているだろう。と思った瞬間、ざしゅざしゅざしゅと木の枝が複数たたっ斬られて吹っ飛んだ。
「な、何だ!」
「黙れ、無法者どもめ!」
あ、ルッタの声だ。うまく誘導できたみたいだな、シャングリア。
「さ、後は任せるか」
それを音でだけだけど確認して、俺はとっとと戻ることにした。
多分、ああいう馬鹿どもはルッタとシャングリアがフルボッコにすることだろう。シーラも何人かぶっ飛ばして、その隙に戻ってきてくれればいいんだけど。




