204.川を抜けたら小芝居開幕
「正面に、教育部隊がいるっす」
「え?」
コングラが、小さいけれどよく通る声でこちらに言ってきた。彼やジランドの肩越しに前方を見てみると、橋を抜けたところの道端に牛車と、数名の教育部隊の方々が待ち構えている。
「突破しますか?」
「そんなことしたら、怪しまれますわよ。きちんとお話をしてみましょう、お相手も悪くない方ですし」
ジランドの軽く面白がったような問いに、ファルンがこちらも楽しそうな笑顔で答える。ん、お相手?
ああ、よく見たら何か、見たことある顔がいる。青い髪で色の白い、キリッとした美人さん。その周囲も全員見たことあったよ、うん。
なるほど、ファルンの言う通り確かに悪くない。
「サングリアスの部隊だ」
「あ、了解っす。全員コータ様がゴチになりましたっけ」
「確認、分かりました」
御者台の二人に声をかけると、彼らも確認してくれた。このまま、普通の牛車と教育部隊として話をすれば、それでいい。
後ろからついてくる下僕じゃない連中に、悟られたくないしな……あれ、何かあったから来たのかな? サングリアス。
ま、用事があるなら話ししてくれるだろうから、良いけれど。
「どうしたんすかあ?」
サングリアス部隊の前で牛車を止め、コングラがのんきに尋ねる。軽く金属音をさせながらこちらの牛車を取り囲む教育部隊、こと俺の下僕の鎧娘たち。うむうむ、きちんと本来のお仕事はやれてるみたいだな。
「ランブロードでマーダ教騒ぎがあってな。念のため、改めさせてもらう」
「ありゃあ。ご苦労さまっす。どうぞどうぞ」
サングリアスとコングラのやりとりに、おやと思った。……てか、何があったかはともかく、普通は出ていくほうを確認するんじゃないのかね。
「ランブロードって」
「確か、次の街ですよね」
アムレクとファルンのやり取りを聞き流しつつ、牛車の後部からサングリアスがこちらに覗かせてきた。俺を確認して一瞬、きりっとしていた両目がとろんととろける。
「失礼する。よいしょ」
「よっと」
シーラに引っ張り上げてもらって入ってきてサングリアスは、俺の前で膝を折った。いやまあ、牛車の中なんで狭いし天井も低いから当たり前なんだけど。
「どうした? 直接来るなんて」
「はい。ランブロードの状況について、です」
ああ、そのことを報告しに来てくれたのか。マーダ教騒ぎ、とか言ってたけど実際はどうなのやら。
と思ってたらふと、今自分が入ってきた方に視線を向ける。そうして、サングリアスは俺たちに問うた。
「尾行している部隊、いかが致しましょう」
「放っておいていい。こちらから手を出したら、恐らくは向こうの思う壺だ」
「それに、連中が狙っているのは自分だ。コータ様のことは何も知らない」
「承知いたしました。では、そのように」
俺と、それからシーラの言葉を受けて彼女は、深く頭を下げた。
外は俺の下僕たちが牛車の確認という名目で警戒してるから、後ろに来ている普通の教育部隊には気づかれてない、と思う。うん。




