129.港へ抜ける前の路地から
途中の一泊は、結局普通に牛車の中で寝た。
シーラとアムレク・ミンミカ兄妹は、御者と交代で御者台で仮眠を取ったらしい。一応、外敵警戒のためな。
で、のんびりとやってきた港町アイホーティは、やっぱり石の塀で周囲を囲まれていた。港なんで、大昔には海賊とか俺配下の魚人とかに襲われたらしい。よくある話、だよね。
「よくおいでくださいました、サンディ様。どうぞ」
で、俺たちの牛車はグレコロンの顔パスでするりと中に入る。というか、どうやら金持ち専用入り口があるらしい。港町だから出入りも激しいだろうに、人全然いなかったもんな。
そのまま、港を見下ろす高台の方に牛車は進んでいく。金持ちの別荘だけあって、見晴らしのいいところにあるってことか。
「あれが、サンディ家の別荘です」
「まあ。可愛らしいですわね」
グレコロンが示したそれに、ファルンが出した感想を俺も持った。こじんまりした、程々にパステルカラーの一軒家。この牛車がするりと入れるくらいには敷地でかいんだけど、周囲の建物も大体同じくらいだから錯覚するんだよなあ。色可愛いし。
大きな門から牛車を敷地内に入れて、俺たちは降りる。建物は地面からちょっと階段を上がったところに玄関があって、牛車の音を聞きつけたのかピンクベージュの扉が軽やかに開いた。
「グレコロン兄様あ!」
「ベルナダ」
「お待ちしておりましたわあ」
うわ、グレコロンに負けず劣らずキラキラ金髪碧眼美形、こっちは女性。多分ふわっとしたウェーブヘアーなんだろうけど、それを首の後ろでひとまとめにしてもキラキラ度がすごい。あと、ブルーのドレスが鮮やかだなあ。肌白いからか、綺麗に見える。
にしても。
「兄様?」
「実際には従妹なんですが」
「ふむ」
ああ、小さい頃から兄妹同然に仲良く育ったパターンか。この世界でいとこが結婚できるかどうかは知らないけれど、もしかしたらそれも親世代は考えていたかもしれないな。仲良くなりすぎてそんな気にならない、とかいうオチかも。
そんな事を考えている俺をよそに、グレコロンはベルナダ、ってさっき呼んでたその女性に俺たちを紹介してくれていた。
「手紙は届いているだろう。知人のファルン殿、カーライル殿とそのご友人たちだ」
「ええ、伺っておりますわあ。さあ、どうぞどうぞ。小さな別荘ですが」
ファルンが筆頭でその次がカーライル。……うん、まあマール教僧侶の立場は絶大だよね、この世界。あまり気にすることもないか、どうせ俺は邪神だし。
「スラーニア、レフレティ、お客様のお荷物をお願いするわあ」
「はい」
「分かりました」
ベルナダが奥に向かって名前を呼ぶと、古典的ロングスカートスタイルのメイドさんが二人出てきた。青っぽい髪を三つ編みにした眼鏡っ娘と、赤っぽい髪をポニーテールにしたつり目の娘と。
「使用人はこの二人ですわあ。女性ですけれど、なかなか力がありますの」
「よろしくおねがいしますわね。……あなたがスラーニアさん?」
「はい」
「こちらがレフレティさんね。お世話になります」
「どうぞ、何なりとお申し付けください」
眼鏡がスラーニア、ポニテがレフレティと。
ちらりとグレコロンに視線をやると、満足げに頷いてくれた。よしよし、せっかくなのでこの二人もありがたく頂いてしまおう。
やったね。




