120.住んでる人から見た感想
「何? 兄ちゃん、領主様見に行ったんだ。物好きだねえ」
「物好き、なんですか?」
食堂でカーライルに話しかけてきたのは、教会の近くで運び屋をしている黒髪短髪の肉体派なおじさんだった。今日は見回りの日で道が通れないので、仕事は上がったりだとか。
だからって、昼間から酒かっくらうのもどうかと思うけど。後、頭に巻いてるそのバンダナ、いつ取り替えるんだろう? まさかいつも同じ柄、というわけでもなさそうだし。ほつれ具合とか。
ま、それはともかく。
「こちらの領主様を拝見する機会が初めてでしたので、伺っただけなんですが」
「ありゃ基本、旅行者と女の子を喜ばすためのパレードだからなあ。男は人にもよるけど、苦手なやつは苦手だぜ」
イケメンだからな、と言ってそのおじさんはガハハと笑った。ああ、そういう人他にもいるんだ。納得。
とはいえ、カーライルが頑張ってうっとりしてるふりをしたことは言わなくていいよな。
「そっちの獣人と鳥人のみんなは、外には出なかったんだろ?」
「あ、はい。僧侶様からそう言われました」
「やっぱりか」
獣人と鳥人、つまりカーライルとファルン以外の四人は、全員頷いた。代表して答えたのはシーラで、彼女の答えにおじさんも頷いてくれる。ああ、普段から旅行者には注意してくれてるんだな、僧侶さんは。
「いや、最近領主様んとこに紹介されてく子が少ないって話は聞いてるからな。その分、住民が率先して行ってるんだけどよ」
「え」
おいおいおい。
旅行者狙いだったのが当てが外れたからって、住民に標的替えかよ。とはいえ、住民の方はおじさんの言い方からすると喜んで行ってるみたいだけどな。
「毎月、見回られるんですわよね。そのたびに、住民の方が?」
「さすがに毎月はねえな。年に一人か二人行って、しばらくしたら領主様と一緒に行進してるぜ」
ファルンが不思議そうに尋ねたのに、おじさんがあっさり答えてくれる。あと、その人たちを領主が連れて行く理由も。
そうか。あれ、領主が魅了して連れてった奴らかよ。道理で獣人鳥人ばっかなわけだ。
「領主様のところに行った人たちのお仕事って、領主様の護衛なんですか」
「そう。なかなか見栄えがしてかっこいいだろ、あいつら」
俺がロリっ子外見にかこつけてあどけなく尋ねてみると、おじさんはとっても嬉しそうに答えた。あ、この人、やっぱりこの街の住民だわとなにかフッと思った。
領主が獣人や鳥人を連れて行って勝手に護衛にしてることに、何の疑問も持ってないんだから。いや、ここの人たちからしてみれば『選ばれて領主様の護衛になりました』なんだろうか。
「おれなんかはもうおっさんだからな、ああいう仕事は無理だ。だからこそ、領主様も若い子に声かけるんだよな」
本当にそうみたいだ。「あの制服かっこいいんだけどなー」と言いながら、さらに酒をあおるんだもんな、おじさん。
「とはいえ、領主様のおかげでサンディタウンは平和でいられるってのは事実だぜ。住民登録をクリアすれば、種族関係なく穏やかに住むことができるんだからな」
「おだやかに、ですか?」
「ぼくたちみたいなじゅうじんでも、ですか」
「そうだぜ? 俺も一応獣人だからな」
ウサギ兄妹ににいっと笑ってみせて、おじさんはバンダナを外すと短い角を見せてくれた。
ああ、このおじさん、牛獣人だ。だから運び屋、力仕事ができてるんだな。なるほど。




