110.よそ行く前にいただきます
事情聴取も終わって安心した翌日、たまたまドンガタの僧侶さんが宿舎の俺たちの部屋に来てくれた。一応、被害者なもんで気を使ってくれたらしい。
ただ、それはつまり飛んで火に入る夏の虫、なわけで。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でございました。古き我らが神よ」
まいどまいど、ゴチになりますマール教僧侶の皆さん。
今回は地人族の女の子だったので俺とさほど身長が変わらず、よって外から見ると小さい女の子が二人イチャイチャしてるだけに見えるんじゃないだろうか。
ちなみにカーライルが「尊い……」と感涙にむせんでいたんだけど、お前色んな意味で大丈夫か?
「というか、古き我らが神て。確かに名乗ったけど」
「そういえば、遠い昔ドンガタはマーダ教信仰だったという伝説がありました気が」
「おおむかしですか? ミンミカのむらのちかくにいたちじんぞくさんは、そんなこといいませんでしたよー」
僧侶さんの変な一言を聞きとがめた俺に、ファルンが僅かに首を傾げた。
ミンミカの言ってるのは、別の地人族の集団だろう。ウサギ獣人がマーダ教信仰だってのを隠してたんだから、地人族の方も隠してたってことじゃないのかね。
というか、この僧侶さんも本来はマーダ教なんだ? そんなことを思って彼女を見ると、俺の前にひれ伏していた。いや、事情教えろって。
「我ら地人族は、古くはアルニムア・マーダ様への信仰を持っておりました。かの戦の折にマール教の侵略を受け、民と技術を滅ぼさぬ見返りとしてサブラナ・マール様への恭順を強制されたのでございます」
「あー……そういうのもあるのか」
良質の剣や道具なんかを作れたから、マール教に寝返ることで生き延びることができたわけか。で、こっそり俺を信仰しててくれた、ならいいんだけどそうも行かないだろうなあ。
「現在はどうなんだ? いや、寝返ったからといって何をするわけでもないけどさ」
「長く時が流れておりますので、既に生まれし頃よりマール教を信仰している者も多うございます」
「それはそうでしょうね。自分も、思い出すまではそれなりにマール教の信者でありましたから」
シーラが、新調した剣をなでながらボソリと呟く。生まれ変わってきてる四天王とか、今現在はマール教の敬虔な信者でーすってなってるやつもいるんだろうな。
……見つかるんだろうか。はて。
「皆様、今後はどちらへ参られますか?」
「えーと」
ふと僧侶さんに聞かれて、答えに詰まった。こういうときは……ファルンかな、頼んだ。
「サンディタウンからアイホーティに参りまして、そこから船で北の大陸に渡る予定ですわ」
ああ、そうだったそうだった。
サンディタウン。地図で確認した後、ファルンやカーライルからいろいろ教えてもらった、次の目的地である。神都サブラナが造られる前は、この大陸の都としてすごく栄えたらしい。今でも結構賑やかな都市ではあるらしいけど。
北の大陸に渡るためにはここから港町であるアイホーティに行かないといけないんだけれど、そこはもともとサンディタウンのおまけみたいなところだったとか。
「北の大陸においでですか。大変ですね」
「コータちゃま、なかまをみつけたいんだそうです。だから、ぼくたちもついていきます」
ざっくりいうと、アムレクの言ったとおりなんだよな。要は俺、仲間を見つけたいから世界のあちこち行こうとしてるんだから。
……しかし、サンディタウン、か。地名として英語が採用されてるのか、俺がそう理解してるだけなのか、そこは分からない。ま、分かってもだからどうだって話だけどな。
「サンディタウンでしたら、獣王バングデスタ様を倒した一行の一人が育った町ですわ。生家は今でも観光スポットになっておりますから、一度見に行かれてもよろしいかと」
「やっぱ観光地になってるんだな。ソードバルでもそうだったけど」
「今の世界は、事実上マール教によって治められていますから。そのマール教に従った英雄たちに関連した場所は、だいたい観光地となっております」
僧侶さん、全力でぶっちゃけたなあ。まあ、ですよねーとしか言いようがないんだけど。




