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109.事情聴取の帰り道

 さて。

 マール教教会及び宿舎への異端派教徒の突入及び戦闘、というのは一応事件である。

 で、その事件に関わった俺たち一行が終わりました、以上というわけにはいかない。ミンミカは捕まってたし、俺は逃げ出したわけだし、シーラとアムレクは戦闘に加わったしな。

 というわけで、それから二、三日ほど俺たちは事情聴取につきあわされる羽目になった。もっとも、戦闘班は基本的にシーラが懇切丁寧に説明していたらしいけど、ミンミカは普段が普段なのでちゃんと説明できたんだろうか。

 そして俺はというと、こういうときは外見ロリっ子万歳、であった。


「ごめんな、お嬢ちゃん。きちんとお話してくれてありがとうなあ」

「いいえ。衛兵さんこそ、ちゃんと説明できなくてごめんなさい」

「ん、本当にいい子だなあ」


 ファルンやカーライルといった保護者はついてきてくれるし、地人族の衛兵さんは外見獣人な俺にも優しいしで、のほほんとお茶菓子付きの会話で終わってしまった。

 これでも、俺にできる説明はそれなりにしたつもりなんだけどな。でも、俺自身がほとんど襲撃されていない上に逃げ出した後は外から見てるだけ、なんでほんと、ろくに話できなかったよ。


「これで、事情聴取は終わりっす。ご協力、ありがとうございました」


 待っていてくれたカーライルとファルンのところまで戻ると、衛兵さんは軽く頭を下げてくれた。それから、カーライルを見て目を細める。これ、ここ数日いつもなんだよな。


「お父さん、良いお子さんですなあ。大切にしたげてくださいや」

「あ、ありがとうございます」


 お父さんと言われて反射的に返事するお前もお前だ、カーライル。

 あと、衛兵さんもさすがにファルンが母親、とは考えないよな。マール教の僧侶、トップとえろえろするまで処女なのが当たり前な世界なんだから。

 それじゃ失礼しまーす、と衛兵詰所を後にする。教会は派手にぶっ壊れたので宿舎の一部を仮教会に当ててるんだけど、宿泊客は俺たちしかいないからそのまま使わせてもらってる。移動しなくてよかったのはほっとした。さほど荷物があるわけじゃないけれど、めんどくさいもんな。

 そんな中、カーライルが小さくため息を付いた。


「……コータ様の父親だと思われましたね」

「もうひとりの殿方はアムレクさんですから、カーライルさんをお父上だと考えるのは当然のことかと」

「……まあ、そうか……」


 ああうん、ウサギ獣人が父親だと角生えたりしないんだろうな、単純に考えて。しかし、片親が人間だとガゼルさんみたいにちっこい角しか生えないんじゃないだろうか。種族にもよるのかね。

 それで、ミンミカやシーラが俺の母親扱いされないというのも何か分かった。垂れ耳もなければ翼もないからな、そりゃそうだ。

 世界が違うと、いろいろ違うよなあ。


「なあ、カーライル、ファルン」

「は」

「はい?」


 いろいろ違うといえば。


「シーラがぶった切ったあれ、みんな平気で見てたな」

「ああ。さすがはシーラ様ですね、綺麗に真っ二つでしたよ」

「肉があまり飛び散らなかったので、後処理はさほど手間取らなかったとか」


 この反応な。

 俺が前にいた世界より殺伐としてるのは分かるし、ドンガタの村が武器作りで賑わってるのは事実だから当然、ああいうこともあるわけだ。

 けど、そこまで平然とされるとなあ。


「結構平気なんだね、ああいうの」

「平気と言うわけではありませんが……行き倒れですとか、そういった骸であれば時々見るものですから」

「野生の獣が食らった後、などというものもあります。生々しいものから、完全に骨になったものまで」

「……俺が流された世界、というか国じゃ、直接見る機会なんてほとんどなかったからさ」


 俺がそういうと、二人はふと口ごもった。こいつらは、俺がいた世界がどんなところかなんて知らないもんな。当然、反応なんてできないだろう。

 でも、彼らは彼らなりに考えてくれて、そうして結論を出してくれた。


「まあ、コータちゃんはあまり見なくて良い光景ですから」

「こういうことは、配下である我々の仕事です。コータ様は、どうぞお気になさらず」

「うん、ありがとう」


 慣れていないなら、見ることを減らすという結論を。ありがとうな、本当に。

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