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32 お土産

目があってニコッと笑うだけで綺麗な人だとわかる。金色の髪がお似合いだ。


慌てて

「お久しぶりです。ローレンス殿下」

と言い、貴族の礼をする。

「やぁ、ストンズ嬢」


「サマーパーティーでは踊っていただきありがとうございます。楽しかったです」

「それはよかった、色々あったからね。生徒会としての活動も最後の準備だったから、楽しめたなら嬉しいよ」

「最後の活動なのですか?」

「そうなんだよ、4年生だからほとんど学院には来ず実地で学ぶ者が多いからね。私もことが済んで、執務が立て込んでいるから、卒業式まで学院には行かないかもな」

「そうですか」

淋しい、その続きの言葉が出ない、ただひたすらに淋しい気持ちが溢れている。


会話が途切れたのがムズムズして焦ってくる。偶然なのだから、これでお会いできるのも最後だろう。

焦った心は考えなしで私の口から飛び出す。

「私、この夏季休暇領地に行ってて、今、友達にお土産を渡してて」

と全く関係ない、言い訳じみたものを言い、何も考えず、匂い袋を差し出した。

「これは」

「お土産です」

と下を向きながら言う。

ローレンスが取り出すと

「変わった形のどんぐりだね」

と言う。ゆっくり顔を上げると例のどんぐりが殿下の指に摘まれて存在していた。

あ、何をやってるの私、こんな怪しい物を渡すなんて、また不敬じゃない。

「まち、間違えました」

と慌てて取り返そうとしてみたが、意地悪そうに笑う殿下が

「土産だろ、どんぐり貰うなんて初めてだね」

とクックッと笑う。そりゃそうだろう、だってどんぐりだもの。

ずっと笑う殿下に、何故かほっとして、返してくれなさそうなので、いわくつきの気がするこのどんぐりの説明を掻い摘んでする。

「妖精?」

また馬鹿にしましたね。笑いながら言う殿下にむくれる。

「違いますよ、変わった形のどんぐりと神秘的な景色が私の想像を駆り立てたというか」

と膨れ顔で言う。

「わかった、何処かいい場所に埋めてみるよ、妖精に会えるのが楽しみだ」

と言いながらまだ笑ってる。

憑き物が取れたかのように、以前感じた薄幸などなかった。ただただ美しいその人は楽しそうに笑ってる。

なんでかその顔を見ていると私も笑ってしまう。楽しいと淋しいが入り混じる。こんな気持ちは初めて。鼻がツンとして目頭が熱くなって、手を顔に当て誤魔化した。

一通り笑い終えると

「では、またストンズ嬢、土産ありがとう」

と言って金色の髪が揺れ、後ろ姿を見送った。


「あぁ〜、私、駄目だなぁ」

と誰にも聞こえないよう呟く。


馬車は、規則正しくガタゴト音をたて、窓から見える夕暮れが揺れていた。

誰にも言うつもりのないこの気持ちを何処かに置いてこれたらいいのに。


すっかりノーラ姉様に買う予定だった串焼きは忘れてしまった。

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