44「わたくし、アリサの母の白輝クリスティーナと申します」
白輝邸。
僕の家から現地まで、およそ八キロほど離れた場所にあった。
電車でいうと五駅分。
僕は今日、アリサさんに自宅へと招かれている。
詳しい説明は何も聞いていない。ただ会って、話がしたいと言われただけだ。
しかし結婚式を翌日に控えた花嫁が、直接僕に用事があるのだから、大切な用件なのだろう。ここは行くしかない。
もしかしたら――何かのトラブルで式が中止になったのかも? という期待も抱かないではない。
そうこうしてる内に、アリサさんの家についた。
あすかの家が格式高い古くから続く武家屋敷ならば、アリサさんの家は優雅なヨーロッパ風の宮殿といった感じだ。
王宮のようにそびえ立つ邸宅に入ると、フカフカの芝、満開の薔薇が咲く大きな庭園、ビーナス像が水を汲む噴水広場などがあった。
家に上げられ、応接室に通された。
広々とした空間には、三人の男女がソファに座って談笑をしていた。
そのうちの一人はアリサさんだ。
「あら。ようこそおいでくださいました」
一番年長の女性が立ち上がって、僕に向かって深々とお辞儀をした。
「わたくし、アリサの母の白輝クリスティーナと申します」
まさしく、アリサさんの母親といった感じの人だった。
白輝クリスティーナ。
眩しいほどの威光を放つ人だった。
アリサさんに負けないくらい白い肌は光沢が輝いていて、結い上げた銀髪のプラチナヘアーは、おとぎ話に出てくる「お妃様」そのものといった印象だ。
顔はアリサさんにそっくり。というより、アリサさんのお姉さんだと言われても、少しも疑わないくらい若々しい。しかし、それでいて見る者を平伏させる、絶対的な威圧感を静かに放つ、不思議な人だった。
「は、初めまして。神奈月透といいます」
僕はクリスティーナさんにならってお辞儀を返した。
「本日はお会いできて、うれしゅうございますわ」
「こちらこそ、お招きいただいてありがとうございます」
僕がそう言うと、クリスティーナさんは嬉しそうに、
「あなたは、アリサとは大変仲良くしてくださってると、聞き及んでおります」
「ええ、まあ」
「これからも、アリサとは良きご学友でいらしてくださいね」
「はい」
なんだろう、何だか緊張するな。
こんな丁重に挨拶されたことがないからだろうか。
と考えていると、折り目正しい挨拶を終えたクリスティーナさんが、青みがかった大きな目を細めて、
「そんなに緊張せずともよいのですよ?」
「は、はい」
と答えるが、声が裏返ってしまった。
するとクリスティーナさんはクスリと笑って、
「アリサはね。学校ではお澄まししているかもしれないけど、家ではあなたのことばかり話しているのですよ」
「え……そうなんですか?」
「……お母さま」
そう言ってソファから立ち上がったのは、アリサさんだった。
「……今日、神奈月さんを呼んだのは、そんな話をするためじゃないです……」
なぜかアリサさんは耳たぶまで顔を真っ赤にしている。
それにしても、一体どういう話があって、彼女らは僕を招待したのだろうか。
「おほほ。これは失礼」
と、クリスティーナさんは一笑して、
「本日あなたをお呼び立てしたのは、アリサのいう『神奈月さん』という方がどういう方なのか、一度お会いしてお話したかったからですの。アリサにも諦めというものをつけてもらいたかったですし」
なんだろう。なんだか、よくない雰囲気だ。
「あの、それって――」
僕がそう言うと。
「お初にお目にかかります」
男が、僕の目の前に立った。
体格が良く、髪を七三分けにした二十代前半ぐらいの美形タイプ。
仕立てのいいスーツを着て、凛々しい眉毛を下げて僕に笑いかけている。
「あなたは……?」
僕がそう尋ねると、彼は眩しい歯をキラッと見せて、
「これは申し遅れました。私はアリサさんの婚約者で、青木ヶ原寄道と申します」




