34「あたしは……絶対みとめないからね! あんたのこと!」
「初めまして。わたくしは雪ノ宮あすかと申します。以後、お見知りおきを」
そう言って、あすかは深々と頭を下げた。
我が家のリビング。
僕らはあすかを囲むようにテーブルに座っていた。
しかし本音を言うと、虫の居所が悪い。何しろ、りおんとあすか(ことり)は、先日死闘を演じており、いつ爆発するかも分からない関係なのだ。
ほみかに至ってはなお複雑で、僕の本当の妹ではないのだが、実の兄妹のように育ってきた。その事実はこれからも隠し通す気ではあるが。しかし今、目の前には、父親違いだが本当の妹がいるのだ。これほど複雑な話はない。
「あっ、うん。初めまして(゜д゜ノ)」
「初めましてじゃないけど、初めまして(`ε´)」
「まあ、そういうことだから。仲良くしてやって」
ほみか、りおんは、それぞれ複雑な表情を浮かべて挨拶を返した。突然の事態に、さすがの彼女達も困惑しているようだ。
「これまでご挨拶が遅れましたこと、まことに申し訳ありません」
しかし、あすかは気後れすることなく、冷静に自己紹介を続けた。
「わたくしの出自につきましては、先ほど申し上げたとおりです。実家は雪ノ宮という古くから続く家元で、透お兄様とは遠い親戚にあたります。何かご質問などはおありでしょうか?」
「えーと、質問っていうか、聞きたいことだらけなんだけどね?」
と、手を上げたのはりおんだった。
「まあ、透ちゃんにこんな可愛い子が親戚にいたっていうのは、この際だからいいよ。まあ、本当はダメなんだけどね。ていうか、絶対に排除しないといけないんだけど。……それよりも一番大事なのは……」
りおんにしては言葉が尻切れになっていたが、やがて意を決したらしく、
「雪ノ宮って、あの雪ノ宮家でしょ? そんな名門一族が、透ちゃんの遠縁とはいえ親戚だったなんて、とても信じられないんだけど」
「それにつきましては、今すぐ証明する物は用意しておりません。ご要望であれば、わたくしの母やお兄様のおば様が証人になってくださるはずですが」
あすかは涼しい顔で、
「要点をまとめますと、わたくしとお兄様は遠い親戚にあたります。それがなぜ今まで隠されてきたのかという点ですが……これは一言で申し上げると、親同士の確執になります。わたくしのお父様が、とある理由からお兄様のご家族とはとても仲が悪かったのです。しかしこの度、現当主である父が亡くなり、その枷が無くなりました。ということで、こうして水入らず。何のはばかりもなく親族の縁を深めることが出来るようになった。……ということですわね? お兄様?」
「え? ああ、うん。そうだね」
「ということですので、雪ノ宮という家柄はありますが、何の遠慮もすることなく、わたくしを一人の人間として扱っていただきとうございます」
そう締めくくると、あすかはペコリとお辞儀をした。
……ていうか、凄いな。
何が凄いかって、嘘はついてないってことなんだよね。親戚といえば親戚みたいなもんだし、あすかの父親が亡くなったからっていうのも本当のことだし……これだけの説明をアドリブで言えるあすかは、やはり頭の回転が速い。
しかしまあ、妙な脚色をされるよりは、よっぽどマシなんだけどね。僕とあすかの関係を隠すには、もっとも的確な説明だったと言える。
「えーと。まあ、そういうことだから」
僕はあすかの自己紹介をそうまとめた。
「僕にとっては交流が深いんだ。あすかとは。ほみかは七年前まで父さんの所に引き取られていたから知らないだろうけど。りおんには、ごめん。雪ノ宮っていうのはかなり由緒正しい家柄だから、隠していたわけじゃないけど、あまり大っぴらに言えることじゃなかったんだ。ということで、雪ノ宮家と神奈月家の関係は、できるだけ秘密にしてもらえると助かるよ」
「ま、まあ。それはいいんだけど……(●`・ω・)ゞ」
「分かったよ。透ちゃんがそう言うなら。まあ、わたしに隠し事をしていたことについては、後でみっちりがっつり説明をしてもらうけどね?ε=(`血´)ノ=3」
僕の説明に対し、以上の表情で返事をする、ほみかとりおん。
特にりおんは、顔がヤバいことになってる。
まあ要するに、僕とあすかの関係を疑ってるわけだ。四親等離れた親戚なら結婚も出来るわけだし。
「……(★´-ω-)。゜」
あすかはあすかで、お澄ましした顔でチョコンと僕の隣に座っている。
うーん。
やっぱり、こんな上辺だけの説明じゃ納得できないか。まあ、それはしょうがない、僕自身、事情を全て把握出来てるとは言いがたいわけだし。しかしそうなってくると、今度はどこまで話せばいいの? となってくるんだよな。例えば「ことり」の存在なんかは絶対話せないわけで。どうにか混乱が起きない程度に話が出来ればなと思っていたんだけど。
「ねえ。ちょっといい?」
僕が釈明の言葉を選んでいると、ほみかが口を挟んできた。
僕にではなく、あすかに、である。
「ひとつ、言っておきたいことがあるんだけど」
「何でございましょうか? ほみかお姉さま」
あすかが礼儀正しく聞き返すと、ほみかはキッと目を吊り上げた。
「あたしは……絶対みとめないからね! あんたのこと!」




