31「あんた――アリサさんのこと、好きなの?」
そして、次の日の正午。僕、ほみか、りおんの三人は、リビングにて話し合いをしていた。
「ダメダメ! そんなの絶対ダメだし!」
まず第一声を発したのは、ほみかの怒りの声だった。
僕はそんなほみかに「まあまあ」と手を振りながら、
「落ち着いて、ほみか。結局は、アリサさんが自分で決めたことなんだから。電話もメールも返してくれないし、僕らにはどうすることも出来ないよ」
「何言ってんのよ! それは親に強制されたことじゃないの! そんな結婚、とてもじゃないけど認められないわ!」
「あ、でもでも。意外と悪くないかもよ? お相手さんって、大企業の社長の息子でしょ? 玉の輿じゃない。お金はあるに越したことはないし」
と、ほみかをなだめる僕にりおんが言った。サッパリと割り切った意見のようにも聞こえるが、これはこれでりおんの言ってることも正しい。
まあ女性からしたら、玉の輿に乗れることは一種の憧れなわけで。しかし、ほみかにしてみれば、愛のない結婚なんて考えられない、といったところだろう。
そんなこんなで、思い思いに昼食を食べ終えた午後の昼下がり。僕らはリビングにてお茶でも飲みながら相談をし合っていたのだった。
相談内容は、もちろん昨日のアリサさんの件である。
「だから、わたし達が口を挟む問題じゃなくない? 一人娘として、女性として、白輝さんが自分で決めたことなんだから。異論を挟むのは失礼ってものよ?」
「それは家の利益のためでしょ? アリサさんの意思は無視されてるわ」
「まあ、りおんの意見もほみかの意見も分かるけどね。……それはそれとして、僕はもう一度アリサさんと話をしてみようと思うよ。どう転んでも、あと二日でアリサさんは結婚させられてしまうんだからね」
肯定をするりおん、否定をするほみかの意見を、僕がまとめた。
まあそれぞれに考え方の違いってものはあるが、問題解決の糸口はまったく見えていないのが現状だ。何しろ白輝財閥といえば日本でも有数の名家なので、僕らのような庶民が太刀打ちできる相手ではないのだ。
ともなれば話は平行線。それは良いだのそれは悪いだのと。話し合いは、互いの価値観の押し付け合う、ただの水かけ論へと成り果てていた。
ほみかはチーズケーキを食べながら、あくまで結婚は好きな人とするべきだと主張。りおんは生クリームの乗ったチョコケーキを食べながら、両家も納得しているならそれも仕方ないと主張。僕はとりあえずアリサさんの意思が何より尊重されるべきと主張し、結論を言うと話し合いは一向に進まなかったと言えるだろう。
で、まあ。そろそろお開きなんてどうだろう。そんなことを言いかけた時、ふいにほみかが口を開いた。
「バカ兄貴。あんたに一つ聞きたいことがあるんだけど」
ほみかにしては改まった言い方で、もう一度言った。
「いい? 前から聞きたかったことなの」
「うん、いいよ。何?」
半ば予想していたことなのだが、ほみかは真剣な顔でこう言った。
「あんた――アリサさんのこと、好きなの?」




