20「しょうがないな。わかったよ。じゃあ二人で行こう!」
そして、やってきました某遊園地。
僕らの住んでる市内の中では、一番大きな遊園地だ。
目玉は85メートルを越える観覧車であり、他にも45種類ほどの大型遊具を備えている。更にはキャラクターショーなどのイベント各種、この時期には花火大会も併設して行っているという、イベントが盛り沢山な施設だ。
「……私、遊園地って初めて来ましたけど、大変な盛況とはしゃぎ具合ですね。大人も子供も一緒になって駆け回っています」
(……なんだかお祭りみたいで、心が踊りますね)
アリサさんが見てるのは、着ぐるみとの触れ合いコーナーだ。文字通り、ねずみやアヒルや犬といった、見慣れたキャラクターのぬいぐるみを、子供達が大はしゃぎでペタペタと触っている。その他にもカップルで来ているらしく、彼女がぬいぐるみに抱きついているのを、彼氏が携帯で撮影するという、微笑ましい光景も見られた。
「……ああいうのって、中に人が入ってるんですよね。この暑い中熱気もあるのに、十キロ近いぬいぐるみを着て、動き回って子供たちに揉みくちゃにされるんですね。私も子供ではないので、あの手のキャラクターには興味もありません。どうしてみんなが群がってるのか、不思議でなりませんね」
(……ほ、本当はとても興味があるんです。私、ああいう可愛いキャラクターが大好きなんです。はぁっはぁっ……。今すぐもふもふしにいきたいです)
と、アリサさんは酷評しているが、心の中は見事なくらい逆で、着ぐるみを中心とした輪に入りたがっている。いや、せっかく遊園地に来てるんだし羽目外せばいいと思うけどな。というか、遊びたいなら遊びたいって言えばいいのに。
「……それにしても何ですね。大人たちもいい年をして、あんなぬいぐるみに列を作ってまで触りたいんですかね。子供じゃあるまいし、全くもって理解不能です」
(……もふもふしたい、もふりたいです。そんな子供っぽいところ、神奈月さんに見せるわけにはいきません)
「……あのさ、アリサさん」
流石に見かねた僕は、アリサさんに突っ込みを入れた。
「せっかくなんだから、アリサさんも行ってきなよ。くだらないとか言ってさっきから食い入るように見てるし。本当は好きなんでしょ?」
そう。
園内に足を踏み入れてから早十分。距離にして数メートルの場所で僕たちは立ち止まっていたのだった。
いや、立ち止まっているというより、アリサさんが動いてくれないだけなんだけど。そもそも僕たちは遊ぶために来てるのだから、遊ばなきゃ損じゃないか。
「……なにを言うんですか神奈月さん」
アリサさんはジト目で僕をにらんで、
「……この私が、あんなぬいぐるみ如きに心惹かれてるはずがないでしょう?」
(……この年にもなってぬいぐるみが好きなんて、神奈月さんにバレたら恥ずかしいんです)
「いや、心惹かれるとか惹かれないとかじゃなくて。こういうテーマパークに来てるんだから、そこでしか味わえない体験をしないというのは、勿体ないんじゃないかって話」
「……それなら、神奈月さんだけで行ってくればいいです。何と言われても、私は行きません」
(……ああ、言ってしまいました。もう終わりです、おしまいです)
「いやいや、そう頑なにならずに」
「……うるさいです。頑なになんてなっていません」
そういって、そっぽを向いてしまうアリサさん。
ふーむ。
すっかりへそを曲げてしまったようだ。
しかもその内容が、実に子供っぽい。
といっても、白輝アリサさんはクーデレ病にかかっているので、本人の意思とは無関係にクールな態度を取ってしまうんだけどね。
でもそういうクールというか、冷めた態度の裏側には、年相応の女の子らしい、可愛い側面ももっているのだ。
……まあ、僕に対しても表向きはそういう態度は見せないんだけどね。
「しょうがないな。わかったよ。じゃあ二人で行こう!」
「……え? な、なんですか?」
僕は呆気に取られるアリサさんの腕を取り走り出した。
そしてぬいぐるみの輪の中にダイブ。アリサさんは一瞬短い悲鳴を上げたが、可愛いキャラクター達に囲まれると、すぐに相好を崩した。
そうなんだ。デートと行っても楽しむために来てるんだから、難しいことはいいっこなし。――といいながら、アリサさんも結構楽しんでるみたいだけどね。




