18「やあアリサさん! 待った?」
紆余曲折を経て、アリサさんとのデート。
遊園地からほど近い駅前で待ち合わせ。
時刻は午前八時。
駅前の改札口で待ち合わせをしているのだが、やはり夏休みだけあって人が混雑している。僕らと同じように、地下鉄で待ち合わせをしてから、遊園地デートというカップルも多いようだ。皆それぞれに緊張、あるいは期待をしながら、恋人の到着を今か今かと待ちわびている。
かくいう僕も同じだ。
今日は、アリサさんとのデートである。
同じクラスで、席が隣で、アドレスも知っていて、たまに一緒に帰るぐらいの関係だが、今までデートをしたことがない。
――もしよかったら、明日デートをしませんか?
アリサさんから送られてきたメールの文面だ。
……正直、こんなことをしてていいのだろうかという疑問はあったが。
本当の妹が別にいることが分かってしまった以上、それも危険な人格が潜んでいるとくれば、こちらも何らかの対策を講じる必要があると思うけどな。
しかし、今僕に出来ることはなさそうだし、それならそれで、割り切ってデートを楽しもう。しかも、今日は珍しくアリサさんからのお誘いなんだから。
チラッと腕時計を見る。
時刻は八時十分だった。
まあ、女の子なら身支度とかで時間はかかるだろうけど……。あの真面目なアリサさんが遅刻なんてするかね? それか、待ち合わせ場所を間違えた? それにしては、何の連絡も来ていない。いっそ、こっちから電話してみるべきか……。
(あうう……。神奈月さん、怒ってます?)
とその時、心の声が聞こえてきた。
声のした方向に目を向けると、やたら白い子が柱の影に隠れるのが見えた。
(あわわ……。見られちゃいました? どうしましょう。遅くなってしまって、神奈月さん絶対に怒ってます! 緊張して声がかけられないです!)
と、またもや心の声。
「……?」
僕が気づかないふりをして背中を向けると、
「……」
アリサさんが柱の影からチラチラ顔を出すのが見えた。
うん、まあね。緊張するのは分かるんだけどさ。自分から誘っておいて逃げ隠れされても困るんだけど。
よし、こうなったら。
僕はさり気なく柱の反対側から周り込み、アリサさんの後ろに回る。
そして。
「やあアリサさん! 待った?」
「…………!」
(ひゃウうううううううううううううう!)
僕が肩をつかんで話しかけると。
アリサさんはただでさえ大きな目を、こぼれんばかりに見開いて僕を凝視した。
冷静さは何とかキープできてるけど、心の中では完全に悲鳴をあげている。
「にゃ、にゃ、にゃにをしひぇるんふぇふふぁ?」
いや、動揺してるのは分かるけど、歯抜けバアさんみたいな喋り方されても。
「『何をしてるんですか?』って? それはこっちのセリフだよ。来てたなら来てたで声をかけてくれればいいじゃないか。こっちは、アリサさんとのデートを楽しみにしてたんだからね」
「た、たのしみに……?」
僕がそう言った途端、真っ白なアリサさんの頬がボンッと赤くなった。
それと同時に、彼女は目を伏せながら、
「……そ、そうですか。そんなに楽しみだったんですか。少々お待たせしてしまったようですけど。それなら別に問題はないですよね。私としては特に楽しみというほどでもないのですが」
(……す、すみません神奈月さん。私、今日の服装をコーディネートしたり、デートプランを考えてるうちに、一睡もできなくて。それぐらい今日のデート、本当に楽しみにしてたんです!)




