9「今まで僕が君に嘘をついたことがあったかい?」
僕はキッチンに行くと、ガスコンロの上に、水を入れたヤカンを乗せると火をつけた。
そのまま二階までダッシュで駆けのぼる。りおんのことが気になって仕方なかったからだ。
自分の部屋に戻ってみると、りおんは何故か僕の枕を抱きしめて匂いをかいでいた。近くには、衣服や下着類が散乱している。
「あ……。透ちゃん、遅かったね。あのね、透ちゃんがいない間にお掃除してあげようと思って」
(ま……まさか、このタイミングで戻ってくるなんて。透ちゃんのベッドの上で○○○してたところは、まさか見られてないよね?)
手に持っていた枕をベッドの上に戻しながら、りおんが言った。
「あ……そう。ありがとね。でも、掃除をするのに、どうして僕の下着が部屋中に散らかってるのかな?」
「それは……ちょっとゴチャゴチャしてたから! 少し整理整頓してあげようと思ったの! 本当だよ!」
(透ちゃんの下着の匂いかいで×××してたに決まってるじゃない! その他にも、わたしの匂いをこすりつけて、悪い虫が寄ってこないようにしてたよ!)
「そ……そうか。気を遣わせたね」
「う……ううん。ところで、お客さんは誰だったの?」
「ああ、そうそう。それがね、ちょっと親戚の女の子が訪ねてきたんだけど。色々と話があるから、もう少しここで待っててほしいんだけど……」
「は? 女の子……?」
目からハイライトが消えたりおんが、暗い目で僕を睨みつけながら言った。
「わたしを放ったらかしにしてさあ……。透ちゃんは他の女と会ってたってわけ? 色々と話ってどんなこと? わたし、知りたいなあ……」
「あ……それは、だから……」
やっぱり、こうなったか。咄嗟に親戚の子と言ってしまったが。本当のことを言えば、最悪殺人事件が起きてしまう。ここは、嘘八百で乗り切るしかなかった。
「いや、違うんだよ。本当に、ただの親戚だから。ちょっと話したらすぐに帰ってもらうよ」
これは、嘘ではなかった。
もし仮に、あすかが僕の本当の妹だったとしても、「じゃあ、早速一緒に暮らそうか」とはならない。
あすかの話自体にも、どこかきな臭い所がある。
とりあえず今日は、必要最低限の情報だけ聞き出すつもりだった。
「本当に? ……本当にすぐ帰ってもらう?」
(浮気はダメだよ透ちゃん。もし浮気したら……その子のこと刺しちゃうから)
りおんが確認してくる。心の中で物騒なことを呟きながら。
「う……うん。大丈夫。ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「本当? 本当に?」
「今まで僕が君に嘘をついたことがあったかい?」
「……一度、大嘘をつかれたことがあるけど」
「いや、だから、あの時のことはもういいじゃないか。りおんだって、ほみかに嫌がらせをして迷惑をかけたことは認めてるだろ? 僕はちょっとお灸をすえようと思っただけなんだから」
そう、一ヶ月ほど前に起きた事件。ほみかにやきもちを妬いたりおんは、ほみかに対して数々のいじめを行い、最終的には僕のことまで刺そうとした。
まあ、僕の一計で、なんとか正気に戻すことは出来たんだけど。
「わかったよ。透ちゃんの親戚なら、わたしにとっても親戚同然だからね」
りおんが意味不明な理由で納得している。
「でも、あんまり遅くなっちゃダメだからね」
「努力する」
「あと、決してイチャイチャしたり、触れ合ったり、半径百メートル以内にいれたらダメだからね」
「最後のは無理だけど、なるべく約束するよ」
「えーっと、あとは……」
「ごめん。今お湯沸かしてるんだ。下に行ってくる」
僕は、なおも条件を考えるりおん無視した。
「いい? ちゃんとおとなしく待ってるんだよ? あと掃除はもういいから。衣服とかはちゃんとタンスに戻しておくこと。いいね?」
「……ワカッタ」
「どうして片言なのかは気になるけど、まあいいや。それじゃ、行ってくる」
僕はドアを開けると、勢いよく飛び出し、そのまま1階に駆け下りた。




