4「よく考えてりおん。こんなの絶対おかしいよ!」
そんなわけで、まあ。
ほみかと過ごす楽しい夏祭りも終わって。
後はキャンプ? 海水浴? 天体観測?
今の僕にそんなレクリエーションは許されない――というのは、僕が夏休み前に、一ヶ月ほど入院していたからだ。
ただでさえ勉強が遅れているのだ。この夏休みで挽回しなくては。
「ほら、透ちゃん。また間違ってるよ?」
時間は昼の一時。僕の部屋にて。
ほみかが友達の家に遊びに行ってるので、僕は勉強の遅れを取り戻すため、幼馴染のりおんと自室で勉強会を開くことにしたのだった。
そのりおんは、僕が取り組むプリントを後ろから見て、眉根を寄せた。
「木○、真○、○花、○密、全てに入る同じ言葉は『綿』でしょ? なんで『月』になるの? もう、さっきから透ちゃんダメダメだね。分からないのはいいとしても、適当に答えるんじゃなくて、論理的に思考を組み立てることが大切なんだよ?」
「…………」
うん、実に理路整然としている。僕はシャーペンを動かす手を止めて、
「えっとさ、言ってることは正しいと思うんだけど。うん、なんにも間違っちゃいない。でも、どうして間違っちゃったのか、僕なりの釈明があるんだけど……」
「ふぅ。またその話? 透ちゃん、さっきからしつこいよ?」
(言い訳するなんて、透ちゃんらしくないよ?)
「いやいや! 言い訳じゃないって!」
僕は机をバーンと叩いた。
そして視線を後ろにやり、りおんを睨みつける。
「どうしてりおん、さっきから僕の頭の上に胸を乗せてるの!? 気になって勉強に全然集中できないんだけど!」
「ふぅん? 気になるんだぁ……♡♡ わたしのおっぱい、そんなに気になるんだ♡♡♡♡」
(うふふ。計画通り。この夏休みの間に、透ちゃんをわたしの虜にしてみせるんだから♡♡♡♡)
そう言うと、りおんは僕の頭に乗せた胸をわざと揺らした。
たぷん。
たぷんと。
頭越しでもその大きさは伝わってくる。カップ数はわからないが、だいたいFカップくらいだろうか。ふっくらとした重みは凄いインパクトがある。それでいて、柔らかい。ふんわりとしたマシュマロのような感触は、ハッキリ言って青少年には刺激が強すぎる。
「でもね、勉強する上で一番大事なのは、集中力なんだよ? どんな妨害や誘惑にも負けない強い意志こそが、勉強にも仕事にも必要不可欠なことなの。わかる?」
「で、でも、だからってこれは……」
「喝ーっ! まだ言うかー!」
りおんは大きな双乳を横に振って、僕の頭を叩いた。
「そんなことより、次の問題を早く解いて。『次の漢字の読みを書きなさい』」
「いんとう……か。えっと、どんな字だったかな……」
僕は気を取り直すと、プリントに向き直った。
かなり画数の多い字だったことは覚えてるけど(ボヨン)、ハッキリどんな字だったかまでは覚えていない(ボイン)。
陰頭? いやいや、それじゃ意味がわからない(ブルンッ)。
「って集中できるか――――――――――――――――!」
たまりかねて僕は叫んだ。
「よく考えてりおん。こんなの絶対おかしいよ!」
「え? この問題、そんなに分かりづらかった?」
「いや、そういうことじゃなくて! 頭に胸を乗せられながら勉強するなんて、どう考えてもおかしいって話!」
僕がそう言うと、りおんは、僕の頭に胸を乗せたまま表情を暗くして、
「そんなに……わたしとお勉強するの嫌なの? わたしだって、貴重な夏休みの時間を割いて、透ちゃんのお勉強に付き合ってあげてるんだよ? それなのに、どうしてそんな言い方するの?」
(透ちゃん……わたしのこと嫌いになったの? 昨日わたしが誘ったの断って、ほみかちゃんと夏祭り行ってたじゃない。透ちゃんはわたしのものなのに。いわば、これは透ちゃんに対する罰だよ)
「いや、だから、問題はそこじゃ――」
「この問題の答えは!」
りおんは後ろからシャーペンでプリントに文字を書くと、
「『淫蕩』って書くんだよ。意味は、女の人の色香におぼれて、生活を乱す人のこと。わたしの誘いを断ったり、勝手にほみかちゃんと夏祭り行ったり! つまり、今の透ちゃんそのものだよ!」
ドーン! と僕を指差し糾弾するりおん。
今日の勉強会は、終始こんな感じだった。
ちなみに徹頭徹尾、知識は頭に入ってこなかった。
……もしかして、教えを乞う人を間違えたかも?
そう思わずにはいられない夏の午後だった。




