47『だいじょうぶだよ。いまたすけるからね、ねこちゃん』
僕が登っていっても、子猫は身じろぎ一つしなかった。やんちゃではあるが、人懐っこい猫なのかもしれない。
『ねー! いけそー?』
『うん、いけそう! ちょっと待って』
僕は木の下で話しかけるほみかに相槌を打った。実際は自信なんてこれっぽっちもなかったのだが、ほみかにいい格好を見せたい気持ちが強く勝っていた。
たぶん、この時警察を呼んでおけば、もっとスムーズに救出されていただろう。このときは、そこまで頭が回らなかった。自分達が見つけたのだ。自分達の力で解決すべきだと思ったのだ。
そうこうしてる内に、子猫がしがみついてる木の幹までたどり着いた。
僕は、文字通り猫なで声で話しかけた。
『だいじょうぶだよ。いまたすけるからね、ねこちゃん』
『ニャア~』
子猫は、甲高い声で鳴いた。僕は刺激しないように、そーっと手を伸ばした。
そして、子猫の体を抱きかかえる。
後は下まで降りるだけだ。それだけのはずだった。
僕は右手で子猫を抱え、出来る限りゆっくりと、幹を掴みながら足を絡ませ、ズルズルと下に降りていった。
そのとき、ふいに子猫が、僕の腕から飛び出した。
『あっ』
『きゃあ!』
ほみかの叫び声が聞こえた。しまった。つい手から離してしまった。僕の脳裏に、地面に激突してグチャッと潰れた猫の映像がよぎる。僕はおそるおそる下を見ると……。
『ニャア』
なんと、子猫は無事地面に立っていた。
どうやら上手く体をひねって、足から着地したらしい。
『やったやった! ねこちゃんたすかった!』
見ると、ほみかは大喜びで、子猫を抱きしめていた。
子猫の顔にほっぺたをつけてスリスリしている。猫にも怪我はなかったようで、くすぐったそうに頭をこすりつけていた。
『ふう……よかった』
僕は、ほっと一息ついた。
これで、問題はほとんどなくなった。僕は大きな木を持ち抱えるようにして密着しながら、少しずつ下がっていった。相当古い樹木らしく、ところどころ傷んだり腐ったりしている。地上まであと数メートルほどはある。僕は慎重に体を動かした。
その時だった。
『あっ!』
僕が掴んでいた木の幹が折れたのは。




