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僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ1~妹と幼馴染のバトルがヤバい!~
45/217

45「ほみか。大好きだよ」

 僕は、ほみかを追いかけた。


「ほみか、待って!」


 自分でも、都合のいいことをしてるのは分かってる。

 散々人の気持ちを勝手に盗み見といて、今更言い訳をさせろというのは、都合が良すぎる。


「僕は、ほみかのことを騙す気なんてなかった! それだけは信じてくれ!」


「……っ!」


 ほみかは少しだけ走るスピードを緩めたが、止まることはしなかった。

 ほみかは小路を抜けて狭い路地裏に向かう。

 日も落ちているので、辺りに人の姿はなかった。


「……バカにしないでよ!」


 唐突にほみかは叫んだ。


「子供の頃からそうだったんでしょ! あたしが何考えてんのか、全部知ってた! 知った上で知らないふりして、あたしのことあざ笑ってたんでしょ!」


(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい! ほみかがお兄ちゃんラブなことも、全部知られてたなんて!)


「……違う」


「今までのことは、ぜーんぶ茶番だったってわけね! とんだピエロだわ!」


(このままじゃほみか、お兄ちゃんの顔見て生活できないよ!)


「違う!」


 僕は、ほみかの力の限り走って、ほみかに近づいた。

 そのまま、ほみかの腕を掴む。

 ほみかは、ようやく止まってくれた。道幅の狭い路地。周りには、僕たち以外誰もいなかった。


「……ねえ、バカ兄貴」


(……ねえ、お兄ちゃん)


 ふいに、ほみかが呟いた。


「あたしが今何考えてるのかも、バカ兄貴は知ってるんでしょ?」


(心が読めることなんかより、ほみかはお兄ちゃんが嘘をついてたこと。それが悲しいの)


「……うん。知ってる」


 僕は、短く答えた。今更隠し事をすることなんか、何もない。

 僕にはもう、真実を語ることしか出来ないのだから。


「じゃあ、どうしてそんな力があるって隠してたの?」


「それは……」


「ね? あんたは今まであたしに黙ってたでしょ? で、バレそうになったし自分からバラした。逆に言えば、バレない限りいつまでもあたし達を騙し続けてたってことよ! この先も、ずーっとね! あんたは嘘つきよ! 嘘つきの言うことなんか、信じられるもんか!」


 溜まっていた感情を全て吐き出すかのように、ほみかは一辺にまくし立てた。

 もう、何を言ってもほみかには届かないだろう。ほみかの言うことの方が正しいのだから。

 

「……そうだね。僕は嘘つきで、卑怯者だ」


 だから僕は、全てを受け入れることにした。


「認めんのね、バカ兄貴」


「うん。僕は利己的な人間だ。自分のことしか考えてなかった」


 僕は前髪をかき上げ、額を見せた。


「覚えてる? この額の傷。昔、ほみかと遊んでてついたものだ。この能力を得たのはその時からなんだ」


「な、なによ。今更そんなもの見せて……。つまり、あたしのせいって言いたいわけ?」


(ち、ちがうよ! 全部ほみかが悪いの! ほみかのせいでお兄ちゃんにそんな怪我を負わせて……本当にごめんなさい!)


 ほみかは、ためらいがちに言った。

 僕は、ほみかの顔をじっと見つめながら言葉をつむいだ。


「……ほみかは悪くないよ。全部僕が悪いんだ」


 僕は頭を下げた。深々と。それ以外に、ほみかに気持ちを伝える方法が分からなかったからだ。


「い、今さら謝られたって……。あたしは、あんたを許すつもりはないわよ」


(許すよ! 確かに急なことだからビックリしたけど、ほみかの気持ち、お兄ちゃんに知ってもらえて嬉しいし!)


 ほみかは、伏し目がちに言った。

 どうやら、もう怒ってはいないらしい。

 僕は、ほみかの前に向かって歩き出した。


「僕はね、ほみかの気持ちが知りたかったんだ。いつも嫌い嫌いって言われてたし。ずっと、ほみかに嫌われてるものだと思ってたから。でも、本心はそうじゃないってことが分かって。本当に嬉しかった」


「……うう」


「でも確かに、最初から全部言うべきだったね。本当にごめん」


 僕は、ほみかの肩に手を回した。ほみかはビクッと体を震わせたが、拒むようなことはしなかった。

 この力を得て、嫌なこともあった。聞きたくない声も、一杯あった。でもそれ以上に、一番知りたかった大事な人の本心を知れたこと。


 それだけは良かったと、確かに言える。


「……ねえ、ほみか」


 僕は、ほみかの体をギュッと抱きしめた。

 体の柔らかさ、体温、心音が伝わってくる。

 ほみかは、抵抗しなかった。されるがままになっている。


「なによ、バカ兄貴」


「前から一つだけ、言いたかったことがあるんだ」


「言いたいこと?」


 そう、ずっと前から。子供の時からずーっと。言いたくても言えなかったこと。


「……な、なによ。言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ」


 しかし、僕は口を開くことが出来なかった。

 まばゆい光が、ほみかの背中越しに向かってきていたからだ。

 あれは――車――?


「バカ兄貴……?」


「ほみか、あぶない!」


 とっさに、僕はほみかを突き飛ばした。ほみかはバランスを崩し地面に倒れる。僕はほみかから距離を取ったことを確認すると、前を見た。

 車は、目前にまで迫ってきていた。ヘッドライトが顔を照らす。それはまるで、襲い掛かる獰猛な獣のようにも見えた。


 避ける暇もなかった。つんざくような音が聞こえる。どうやら急ブレーキをかけようとしたらしい。

 しかし間に合わず、車は僕に衝突した。


 全身が叩きつけられ、衝撃が走る。


 体が、宙に浮く。


 地面に落下するコンマ数秒の刹那、僕はほみかに、どうしても言えなかったことを言うことにした。


 ほみか。大好きだよ。

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