44「……じゃあ、証拠を見せればいいんだね?」
(嘘でしょ? 嘘ついてるんでしょ? お兄ちゃん。やだなー、エイプリルフールはもう過ぎちゃったよ?)
僕の告白に対して、ほみかが一番先に考えたのはそれだった。
「いや、嘘じゃないよ。エイプリルフールの冗談でもない。僕は本当に、人の心が読めるんだ」
だから、先手を打っておいた。ほみかはビクッと肩を震わせて僕を見た。
(ど、どうして今ほみかが考えてること分かったの? あ、あてずっぽうじゃないよね? お、お兄ちゃん、ひょっとして……本当に……)
ほみかは、震える指を唇に添えた。その姿に、僕は心を痛めながらも続けた。
「そうだよ。あてずっぽうじゃない。これが、僕の能力だよ」
僕がそう言うと、ほみかは腰に手を置いて、蔑むような視線を向けた。
「ふっ、ふーんだ。バッカバカしい。何よ能力って。この中二病が。そ、そんなことあるわけないじゃん」
(あるわけない……よね? お兄ちゃん、そうだって言って!)
そのまま、僕の顔をのぞきこむ。
「ほらほら~、何とか言ったらどーなのよ。あー、分かった。変な漫画にでも影響されたんでしょー。駄目よ? 漫画の読みすぎは」
「いや……そうじゃない」
「バーカ。超能力なんて現実にあるわけないじゃん。あたしのことからかって、そんなに楽しい? 本当、性格悪いわバカ兄貴は」
「……じゃあ、証拠を見せればいいんだね?」
「……え?」
僕がそう言うと、ほみかはキョトンとして、僕の顔をまじまじと見つめた。
「今から、ほみかの考えてることを当ててあげるよ。あてずっぽうなんかじゃ当てられないようなことをね。そうしたら、信じてくれるんだろう?」
「い、いいわよ!? やってやろうじゃない!」
「あ、先に言っとくけど、頭の中カラッポにしようとか、そういうのは無しだからね? ちゃんと考えて答えるように」
「わ……わかったわよ。何でも聞きなさいよ」
(ひーん。ヤバいヤバい! ヤバすぎる! ほみかの考えてること、お兄ちゃんに全部バレてたなんて! そんなことあっちゃダメだよおおおおおお!)
ほみかは、キッと鋭い視線を僕に向けた。
「そうだね……じゃあ」
僕は考えてみた。あまり難しい話題だと脳内でイメージしにくい。
なので、ここは。
「頭の中で、数字を思い浮かべてみて。四桁以上がいいな」
「す、数字……四桁以上ね……」
すると、ほみかの心の声が聞こえてきた。
(4377……4377……4377……)
「わかったよ」
「へ、へぇ~。じゃあ、当ててみなさいよ。あたしがどんな数字を思い浮かべたのか!」
(当たんないよね。こんなデタラメな数字。当たりっこないよね!?)
ほみかが不安そうに聞いた。
ここで外してみせたら、どんなに心がホッとするだろうか。
しかし僕は、無慈悲に言い放った。
「頭の中で思い浮かべた数字は4377だ。合ってるでしょ?」
「う……そ……」
僕がそう言うと、ほみかは愕然とした表情を見せた。
「だから言ったでしょ。言っておくけど、これは手品でも何でもない。全部本当のことなんだ」
「ちがうよ……うそだよ……」
すぐさま、心の声が聞こえてきた。
(……じゃあ、全部バレてたってこと? お兄ちゃんのYシャツ勝手に借りて匂いかいでたことも、朝起こしにいくついでに寝顔を隠し撮りしてたことも、お兄ちゃんのこと考えてトイレで○○○してることも。全部、全部バレてたってこと……?)
「そうだよ……。ほみかが僕のことをどうしようもなく好きなことも。全部、知ってたんだ」
僕は、顔をそむけた。
もう、ほみかの顔を見ていられなかったからだ。
――どうして、こんな能力を得てしまったんだろう。
それは僕が願ったことだった。ほみかが何を考えているのか知りたい。そう思っていたのは、他ならぬ僕だった。
しかし結果的に、こうしてほみかを傷つけることになってしまった……。
「う……う……」
ふと顔を上げると、ほみかは目に涙を浮かべていた。
「ほ、ほみか。違うんだ。聞いてくれ。ね? ちゃんと話し合えば……」
僕は、ほみかに手を伸ばそうと――
「い、い……いやぁ!!」
ほみかは僕の手を払いのけると、リビングから走り去っていった。
呆然としてしまって、追いかける暇もなかった。
やがて、ガチャリという音がして、ドアを乱暴に開ける音がした。
僕は、ハッと我に返った。
「ほみか、待ってくれ! 話を聞いてくれ!」
玄関にはもう、ほみかの姿はなかった。
ドアを開けて顔を出すと、ほみかは大通りに向かって走っていた。
「ほみか!」
僕はほみかを追いかけ、日が暮れた街へと飛び出した。




