41「わかったよ、お供するよ。きびだんご代わりに一品もらうけどね?」
「――さん。 ――さん」
声が聞こえる。誰かを呼ぶ声が。
が、耳には入ってくるけど頭の中には入ってこなかった。
「――さん? 神奈月さん?」
「え?」
肩を揺さぶられて気がついた。
顔を上げると、心配そうにアリサさんが覗きこんでいた。
僕は周りを見渡した。他の生徒達は弁当を食べたりしている。どうやらもう昼休みになってるらしい。
「ああ、アリサさん、ごめん。何か用?」
「……何か用? じゃないですよ。さっきから何度も言ってるじゃないですか。一緒にお昼食べませんか? ……って」
(……神奈月さん、やっぱり具合でも悪いんでしょうか? 心配です)
アリサさんは弁当箱を持ちながら、不機嫌そうに言う。
その発言を聞いて、僕は椅子から転げ落ちそうになった。
「っ! アリサさんの方から僕をお昼に誘うなんて……。珍しいこともあるもんだね」
慌てて椅子の端っこを掴みながら、体勢を立て直す。
そんな僕の姿を見て、アリサさんは冷ややかな笑みを浮かべた。
「……それ、皮肉のつもりですか? やっぱり誘うのやめにします」
(……あうう、神奈月さんひどいです。こうなったら、絶対に私とお昼食べてもらいます)
「あー、ごめん。急なことだからビックリしてさ。せっかく誘ってもらえたんだから、ご一緒させてもらうよ」
「……嫌味なんて言ってないで、最初から素直にそう言えばいいんですよ」
(……よかった。もし断られたら、私泣いちゃってたかもしれません)
口を尖らせながら、アリサさんはぼやいた。
僕は苦笑しながらカバンから弁当箱を出すと、机の上に置いた。
すると、アリサさんが、
「……よかったら、また裏庭で食べませんか?」
「――裏庭で? 別にいいけど、天気悪いよ?」
そう、あいにく外の天気は曇り空。暗雲立ち込め、いつ雨が降り出してもおかしくない悪天候だった。あまり外で食事する気分にはなれない。そう思っていたら、アリサさんが思いつめたような表情で言った。
「……別に雨が降ってるわけでもないですし。教室で食べても、どうせジメジメしてるんですから同じことですよ。貴方は余計なこと言わずに、桃太郎についてくる犬のごとく、早急に私とお供すればいいんです」
(……大事なお話があるんです。人には聞かれたくない話です。ですから、来てくれませんか?)
心の声が聞こえてきた。すがりつくような口調で。
こういう時の彼女は、心を痛めていることが多い。
だから僕は、椅子から立ち上がった。そして、アリサさんに向かって、
「わかったよ、お供するよ。きびだんご代わりに一品もらうけどね?」
「……!」
(……♡)
僕がそう言うと、アリサさんは雨雲が晴れたように笑顔になった。




