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僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ1~妹と幼馴染のバトルがヤバい!~
36/217

36「……これで、よかったんだ。これで」

「透ちゃん!」


 叫び声が、上がった。僕のお腹からは、大量の血しぶきが舞った。

 僕は、刺さっていた包丁を引き抜いた。まるで噴水のように血が飛び出す。

 僕は地面に倒れた。崩れ落ちる瞬間、りおんの顔がスローモーションのようにゆっくりと流れる。

 その顔は、親に叱られて泣くのを我慢する子供のように見えた。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 りおんは、顔を両手で覆った。それでも、叫び声の大きさは伝わってきた。

 後悔、反省、苦しみ、絶望。

 あるいは別のなにか。

 僕はゆっくりと顔を上げた。りおんが心配そうに僕の顔を覗きこんでいた。

 目には涙がたまっている。その姿は、僕よりもよっぽど痛そうに見えた。


「……これで、よかったんだ。これで」


「透ちゃん、喋っちゃダメだよ! 傷口が開いちゃう!」


「手遅れだよ。僕はもう助からない」


 僕は腹部を触った。

 見ると、手にはべっとりと血がついていた。

 その手をぎゅっと握り締めて、りおんを見る。


「……りおん。最後に一つだけ、約束してくれないか。僕が死んでも、ほみかを傷つけたりはしないって。ほみかは、ほみかだけは……! ごふっ!」


 僕は言い終える前に、ゴホゴホと激しく咳をした。

 りおんは僕の頭を抱きかかえる。


「透ちゃん! しっかりして!」


「……あはは。もう、目が霞んできた……」


 僕は目を細めて、力なく笑った。


「……透ちゃん」


 ぼんやりとした視界の中、りおんは僕の頭を抱えながら抱きしめていた。

 頭に添えられた手が、ブルブルと震えている。

 おそらく分かっているのだ。

 たとえ救急車を呼んでも、無駄なことを。


「わかった! わかったよ! もう、ほみかちゃんを苛めたりしない! 謝るし、絶対に仲直りする! 仲直りするから……」


 りおんは、大声で叫んだ。意識が遠のいている僕にも聞こえるように。

 僕の頭を必死に揺り動かし、意識が途絶えないようにしている。


「……だから、死なないで! これからは、いい子になるから。ワガママ言わないから。迷惑かけないから。わたしのことがキライなら、近づかないようにするから。なんでもするから。だから、死んじゃヤだ!」


 りおんは、僕の顔に頬をつけながら、大声で泣いた。

 小さい頃に戻ったかのように、えんえんと。

 その姿を見て、僕は何ともいたたまれない気持ちになりながら。


 ガバッと勢いよく体を起こした。


「ふえ……?」


 りおんが、涙でくしゃくしゃになった顔をあげた。

 何が起こってるのか分からないといった表情で。

 僕はシャツの下に手を入れて、モゾモゾとそれを取り出した。


「えーっと……、りおん。ごめんね」


 懐から取り出したのは、三千ページを超える分厚い広辞苑。

 それを紐でお腹にくくり付けて、包丁から身を守ったというわけだ。

 りおんが刃物を持ち出してくることは分かっていたから。

 血は、トマトジュースを袋にいれておくことで、血のり代わりとした。本当なら匂いや色でバレそうなものだが、動揺していたりおんは簡単に騙されてくれた。


「え……どういうこと? 透ちゃん……もしかして……」


 まだ事情を飲み込めていない様子のりおんに、僕はキッパリと言った。


「うん。全部嘘だったんだ」

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