52「……それは、君だ」
「ほみか。いつも僕に元気をくれてありがとう。君は目を見張るほど可愛くて、凛としていて、すらっとしていて。何ていうかアイドルになったら絶対成功すると思うよ。寂しいからなってほしくないけどね。性格もいいね。ツンデレ病にかかってるから僕にはツンツンした態度ばっかり取るけど。そんなの愛嬌だよ愛嬌。しかも内心はビックリするくらい乙女チックで、いつも僕の貞操を狙っていて、でも誰より僕のことを大切に思ってくれていて。そのギャップにいつも僕はくらくらと来てるんだよ。幼いころは離れ離れになっちゃってたけど、今またこうしてひとつ屋根の下で暮らせるようになって、本当に良かったって思ってる」
「ひ、ひああああ……」
僕が感謝の言葉を述べると、ほみかは絶頂のような表情を見せた。その隣にいるりおんに向かって僕は話す。
「次にりおん。何てったって、一番付き合いが長い。てかまず美人だよね? その顔もピンクの髪の毛もダイナマイトボディも、何もかも規格外。君がヤンデレ病を患ってた時は、言ってなかったけどもう少しで堕ちそうだったんだよ。ほみかの件さえなければね。君の積極性と魅力に完落ち寸前だった。でも、ヤンデレ病なんかなくたって。君は充分魅力的な女の子だ。料理も得意だし、家事全般できる。そして誰よりも優しい。君みたいな子が幼馴染であることを、僕は神に感謝してるくらいだ」
「ふ、ふええ……」
喜びに目を白黒させるりおんを尻目に、透はアリサに向き合う。
「さて、アリサ。君はもう美女すぎるだろ。純白の肌に清白の髪の毛、深紅の瞳とか、もう現実じゃなくてファンタジーだよ。初めて見た時はそのクールな対応ぶりから、正に氷の女王様だと思ってたよ。ああ、いやいや怒らないでくれ。僕はそういうところも良いなって思ってるんだから。もちろん、君は冷たいだけじゃない。心の中は本当に女の子らしくて、僕のことを一途に思ってくれている。けれど控えめなところもいい。ちょっぴり意地っ張りなところも、意外とファンシーなぬいぐるみとか好きなのも。すぐ拗ねたりするところも。全部が愛らしく見えるんだよ。君と親友になれて、僕は幸せだ」
「……あ、あうう」
僕の賞賛に白い頬を真っ赤に染めるアリサ。僕は最後の一人に向き合う。
「そして、あすか。君は本当に僕と血が繋がってるのか? ってくらい美しいね。その青い髪も碧い目も。おまけにスタイルもいいし、佇まいもきりりとしていて、正に大和撫子といった風情だ。ちょっとネガティブなところはあるけど……。おっと、そんな顔しないでくれ。僕はそれを短所ではなく長所だと思ってる。そうだろ? 君は料理は板前クラスだし、家事はプロ級だ。基本的に何でも出来る。それなのに、君はそれをちっとも鼻にかけない。僕だったら少しは自慢しそうなものなのに。それが君の美点なんだよ。ネガティブなのは、ちっとも悪いことじゃない。少なくとも、傲慢で鼻っ柱の高い人間よりは、よっぽどいい。君のように控えめで慎ましくて、優しい女の子が実の妹で、僕は感動に打ち震えているよ」
「お、お兄様……」
頬を紅潮させ、瞳に涙をいっぱいに溜めながら、僕の言葉を反芻するあすかだった。
一方でぜー、ぜー、と。僕は肩で大きく息をついていた。それぞれに日頃の感謝と日頃の思いを全て伝えたつもりだ。これが、僕の決意だった。共感性症候群などなくても、本音は伝えられる。体力の消費と恥ずかしさを引き換えに。
「まあ何を言いたいかというと。みんなは本来、僕なんかじゃ手の届かない高嶺の花であり、そんな美少女である君たちが、僕を好きになってくれた。今一度礼を言わせてくれ――ありがとう」
僕は深々と頭を下げた。本来ならばずっと頭を下げ続けていたいくらい、感謝の気持ちは堪えない。しかし、まだ重要なことを伝えなければならない。僕は頭を上げた。
「本当なら、全員お嫁にしたい。一人とは言わず、全員。許されるものならばね。でも、僕は一人を選ぶ。僕のことを真剣に愛してくれた君たちだから。例えどんな結果になろうとも。僕はこの中から、たった一人を選ぶ。その人とは――」
僕は言葉を切り、一同を見渡した。彼女たちは緊張した面持ちで、僕をじっと見つめている。僕はそれぞれと視線を交錯させた。期待に胸を膨らませる者、不安で胸が張り裂けそうな者、希望に縋ろうとする者、熱のこもった視線を送る者。ほらね。共感性症候群を使わなくたって、気持ちはくみ取れる。
僕は彼女らを一通り見回すと、一人の前に立ち、そして言った。
「……それは、君だ」
僕は、その人物に向かって手を差し出した。




