50「そうだ。僕は多分、君達のことを信用していなかった」
「「はい??」」
とユニゾンで声を発したのは、言うまでもなくりおんとアリサだ。
「何を言ってるの透ちゃん? 人の心が読めるなんて。いくら透ちゃんでも、そんな話は信じられないよ」
「……私も、りおんさんと同意見です。そんなSFみたいな能力が現実に存在するとは、到底考えられません」
「うん。君たちの言いたいことは分かる」
疑問の声を上げるりおん、アリサと僕は向き合い、
「だけど、これはリアルなんだ。ちなみにこのことは、ほみかとあすかにはもう伝えてある。君達にだけずっと秘密なんてことは不公平だからね。それでも信じられないというのなら――君達が納得するだけ、僕に質問をすればいい。君達にしか知りれない情報を。僕は、それに全部答えてみせるよ」
口をついて出てくる言葉に、僕自身驚きを隠せなかった。でも、信じてもらうにはこれしかない。彼女達に詫びるには、僕の能力を認知してもらう必要がある。
「わ、分かったよ透ちゃん! 今から色々と質問をさせてもらうから……全問正解できたら、透ちゃんの言うこと信じる! ……アリサちゃんも、それでいいよね?」
「……はい……」
困った顔をしながらアリサが、決然としたりおん相手に同意する。そして、二人は代わる代わる僕に対して質問を始めた。
結論から言うと、僕はその質問に対して全て答え正解した。そして、驚愕するりおんとアリサ。これは最悪だ。一番触れられたくないデリケートな部分を、みんなの前で晒すような行為は……よく僕は、こんな能力と長い間付き合っていたよ。自決できるものならそうしたい。二人が心から僕を愛してくれてることは分かってるだけに、騙すような真似をした罪悪感もデカい。
そんなことを考えていると――
「……よく分かりました」
口を開いたのは、アリサだった。
表面上はクールだけど、心の中は僕に普段からデレデレなことがバレて、顔から火が出るくらいテンパっている。しかし、そんな焦燥など微塵も感じさせない涼やかな物腰で、彼女は僕を見つめながら、
「……道理で、おかしいと思っていました。透さん少し勘が鋭すぎるんですもの。そこまで鋭敏かつ聡明な人間には見えないにもかかわらず。でも、こうした能力があったからなんですね。疑問が晴れて、逆にスッキリしました」
「……申し訳ない」
僕がちっちゃい声で呟くと。
「ちょっとちょっと! わたしは納得してないよ!」
割って入ってきたのは、りおんである。
「なんで? りおんの考えてることは全て当てて見せただろ? お前が僕の隠し撮り写真をネットプリントして、それを枕に縫い合わせて毎日抱きながら眠ってることとか」
「そ、そ、それは今言わなくてもいいじゃない! わ、わたしが言いたいのは、透ちゃんにちょこっとだけ失望したってこと!」
「というと?」
「だって、今までわたしのこと凄く理解してくれてたのに、それが全部能力によるものだったなんて! そ、そ、それに。わたしのこと考えてること、全部――」
「そう。君だけじゃなくて、みんなの心を。僕はずっと覗き見てたんだ。僕は僕のしてきたことを正当化するつもりもないから、批判も糾弾も甘んじて受け入れるしかない」
「き、糾弾なんかしないけど! でも、何でそんな力があること、わたしとアリサちゃんにだけ黙ってたの!? ほみかちゃんとあすかちゃんにだけ喋ったってことは、わたしとアリサちゃんは信用されてなかったってことになるよ!? 百歩譲って能力のことは許すけど、それはあまりにも――」
「そうだ。僕は多分、君達のことを信用していなかった」
声を荒げるりおんに、キッパリと僕は答えた。
「ちょっと整理させてくれ。まず第一に、こんな力を持っていることが周りにバレたら、まして政府に知られでもしたら、僕は実験や解剖なんかもされるかもしれない。そこまでいかなくても、平穏な生活を送れなくなることは確かだ。第二に、もし相手にバレたら、この能力はほとんど意味を失うんだ。これは実際あすかにされたことなんだけど、能力の有効範囲外に距離を置くとか、何か他のことを考えるとか、無心になるとか。この力は決して無敵じゃなく弱点も多い。だから、教える人はごくわずかに限定したかった。
最後に一つ。僕は君たちに……嫌われたくなかったんだ。人の心をコソコソ覗き見る変態野郎ぐらいならまだいい。バケモノのように蔑まれるのには……きっと耐えられなかっただろう。要するに、僕の心の弱さなんだ。それが君たちのことをどれだけ侮辱し、また傷つけてきたかと思うと。僕はどれだけ謝っても謝り切れない。
この力に関しては、りおんの紹介してくれたお医者様に診てもらって、近い内に消し去ろうと思う。そんなことは少しの償いにもならないだろうけど……。
本当にすまなかった」
そう謝罪して、僕が深々と頭を下げると――
「「……ええっと……」」
バツの悪そうな顔で、りおんとアリサが、二人して僕を見下ろしていた。ほみか、あすかは困ったような表情をしながらも、成り行きを見守っている。
「わ、分かったよ! 許す! 全面的に許すよ!」
りおんはたまらず叫んだ。
「だから、顔を上げて透ちゃん? というか、わたしは最初から怒っていなかったよ。でも、一番長い付き合いのわたしにさえ、隠し事をしてたのが癪だっただけ。それも、こうしてみんなの前で打ち明けてくれたんだから、もうほとんど解決してるようなものなんだよ。ね? アリサちゃん?」
「……そうですね。私もそう思います」
りおんの問いかけに、アリサはゆっくりと頷く。
「……というか、別にどっちでもいいです。私の本音に関しては、元々透さんに全て打ち明けたんですから。心の中を覗き見られようと、おんなじことです」
「アリサ……じゃあ、君も僕のこと、許してくれるの……?」
「……ええ、許しますよ。というより、急に神から授かった能力なのであれば、貴方を糾弾することこそ間違いでしょう。それに、透さんはその力を正しいことのために使っています。青木ヶ原さんと結婚させられそうだった私を助けるべく、死力を尽くして戦ってくれました。悪用をしてるわけでもないのに、それを責めることは筋違いというものです」
「っ……」
穏やかにアリサに言われて、僕は思わず泣きそうになってしまった。
まさか、こんな優しい言葉をかけられるとは、思ってもいなかった。
しばらくして、赤くなった目をごしごし擦りながら僕は、
「ありがとう……二人共、本当にありがとう……」
「よし! これで一件落着だね!」
僕が落ち着いたのを見計らって、元気よくりおんが幕を閉めた。
「透ちゃんの能力に関しては、まだ寛容できない部分も多少あるけど。そんなこと言ってたって仕方ないし、そんなことで嫌いになるほど、わたし達の関係は浅くないんだよ。ということで、透ちゃん。もう隠し事はないよね?」
「えっと……実はまだ……」
僕が途切れ途切れにそう言うと、りおんとアリサは顔を見合わせた後僕の方を見て、
「ことのついでだから、全部聞くよ透ちゃん。何もかも許すとまでは言えないけど、とりあえず聞いてみないことには始まらないから。とりあえず怒ったりはしないから、言ってみて?」
「……そうですよ。一体いくつ隠し事あるんですかって話ですけど。全て話すことを決めたのなら少しは男らしいと思いますし。ここに来てヘタれることだけは止めてくださいね」
「…………ありがとう。じゃあ、言わせてもらうけど」
二人に優しく促された僕は、軽くほみかに視線を送った。
ほみかもまた、僕のアイコンタクトが通じたのだろう。ほみかが頷いたのを確認すると、僕は二人に視線を戻して、
「これは僕のことと言うより、僕とほみかのことだ。僕とそこにいるほみかとは――実は、血の繋がりがない、赤の他人なんだ」




