32「ああ、そうだ。共感性症候群とか言ったっけ」
「ヤンデレ病じゃ、なくなった?」
「そうだよ? 雰囲気とか変わってない?」
りおんは僕の問いかけに苦笑した。
「前までのわたしは、ほみかちゃんやアリサちゃんに嫌がらせばっかりしてたでしょ? でもここ最近は、危害を加えることが無くなったと思うんだけど」
「そういえば……」
以前は、りおんの心を読むと「殺す」だの「透ちゃんにはわたしだけでいい」だの、物騒なことばかり考えていた。でも今は至って穏やかで、そして優しい。
思考する僕の表情を見て、りおんは「でしょ?」と話しかけると、
「あれからわたし、ただ透ちゃんに頼るだけじゃなくて、自分で考えてみることにしたの。ヤンデレ病のことを調べてみたり、治療法が無いかどうかを探したり。するとね? あったの。それもごく最近。ヤンデレ病を始めとする、ツンデレ病、クーデレ病とかに効く特効薬が。わたしはコッソリと通院して、お医者様から診察を受けていたの」
りおんは、笑った。
その表情の柔らかさ、温和さは、かつてのりおんそのままだった。
「りおん……でもさ、ほんとに治ったの?」
「ふえ? どうして?」
「いや……つまり、あれだけ僕のことを異常なまでに愛してた君が、薬を飲んだだけで治ったりするものかと……」
僕は言葉を濁したが、「透ちゃんを殺してわたしも死ぬ!」とまで言っていたりおんが、急に普通になったと言われても納得できない。
「透ちゃん、ハッキリ言うね」
りおんはくすりと笑った。
「もちろん、最初はすっごくすっごく、ものすごーっく、苦労したよ。投与の前にカウンセリングを何回か受けたんだけどね。透ちゃん以外の人に話しかけられるのが嫌で、先生を刺し殺そうとまでしちゃったもん。でも今は、すごく落ち着いてる。それもこれも、あの子のおかげだよ」
「あの子って?」
誰のことを言っているかは分かっていたが、僕はあえて問いかけた。
「もちろん、ほみかちゃんだよ」
りおんは、そう言って笑った。
その笑顔は、まるで陽だまりみたいにフワフワしていて。
前までのりおんの表情とは、確かに違っていた。
「だから、ほみかちゃんにも治療を勧めたいの。もちろん、アリサちゃんにも。ツンデレ病やクーデレ病にも薬は開発されたって言ってたし。他にも鬱デレ病や、ダルデレ病。えーっと、他には……」
僕は、その言葉を聞いて驚愕した。
りおんは正に、僕が思ってもみなかったことを言ったのだ。
「ああ、そうだ。共感性症候群とか言ったっけ」




